文=酒井政人

2024年9月3日、陸上U20世界選手権から成田空港に帰国した男子800メートルの落合晃 撮影=酒井政人

U20世界選手権で日本勢は3つのメダルを獲得

 パリ五輪で世界中が熱狂した2024年8月。陸上競技は2年に一度開催されるU20世界選手権がペルー・リマで行われ、日本が誇る〝未来のオリンピア候補〟たちが躍動した。

 男女でメダル3つを含む入賞14の好成績。順位をポイント化して争う順位テーブルで総合10位に入ったのだ。

 なかでも注目を浴びたのが6月の日本選手権で高校生Vに輝き、7月末のインターハイで日本記録を打ち立てた男子800mの落合晃(滋賀学園高)だろう。

 

今季〝無敵〟を誇った最強高校生が感じた壁

2024年8月30日、U20世界選手権、男子800m決勝での落合(左) 写真=AP/アフロ

 今季の落合は4月のU20アジア選手権で金メダルを獲得。国内では静岡国際、日本選手権とシニアの大会でも負け知らずだった。しかし、初の世界大会は思うようなレースができなかったという。

 予選5組は1分50秒67、準決勝2組は1分48秒26。ともに2着通過だった。1周目からトップに立つ〝攻めの走り〟が同世代のライバルたちに封じられたのだ。

「初めての世界の舞台。カラダの大きな選手がいましたし、レース展開も国内と違いました。なかでも位置取りがすごく難しかったんです。準決勝は想定しなかったことがいろいろ起きてしまい、動揺してラストもキレがなく、(通過が)ギリギリのレースになりました……」

 決勝は準決勝の反省から「冷静に走ろう」と落合は考えたという。レースはケニア人選手が400mを51秒70で引っ張り、落合は1周目を4位通過する。しかし、2周目に苦戦した。

「ラスト300mから行きたかったんですけど、どんどん被せられて内側にポケットされたんです。バックストレートは(選手が)外側にも広がっていたので、そこでは出られないなと思ってラスト100mの勝負に賭けて走りました」

 落合は2周目で順位を落として、600mの通過は6位だった。それでも最後の直線で急上昇。1分47秒03で3位に食い込み、U20世界選手権の男子800mで日本勢初のメダルを獲得した。

「ラストの自信はありませんでしたが、なんとか動かせてギリギリ3位に滑り込めたのは良かったです。優勝を目標にしていたので、悔しい部分はあるんですけど、メダルを獲得できたのは素直にうれしいなと思います」

 優勝したエチオピア人選手の記録は1分46秒86(自己ベストは1分45秒45)、2位の豪州人選手は1分46秒95(同1分44秒11)。タイムだけを考えれば、1分44秒80の日本記録を持つ落合には金メダルのチャンスがあっただろう。しかし、世界のミドルディスタンスはペースの上げ下げが激しく、位置取りも想像以上にハードだった。

「世界と勝負するには実力がまだまだ足りないなと感じましたし、スピードも通用しなかった。自分の持ち味だった先頭で走り切るレースもさせてもらえませんでした。特にラスト300~400mにかけてスピードアップするレースが難しい。世界はこうやって戦っていくんだなと身にしみました」

 

箱根駅伝よりもミドルで「世界」を目指す

 落合は駒大で活躍した安原太陽(KAO)らの出身校である滋賀学園高に在籍しており、箱根駅伝への憧れを持っているという。しかし、800mで世界と対峙したことで、今後の目標が変わりつつあうようだ。

「チームは全国高校駅伝の8位入賞を目指しているので、そこに貢献したいと思っています。また小さい頃からテレビで観ていた箱根駅伝を走りたいと思う時期もあったんですけど、いまは800mや1500mで頑張りたい気持ちが強いです」

 今後のターゲットは来年9月に開催される東京世界陸上だ。同大会の男子800m参加標準記録はパリ五輪の同記録を0秒20上回る「1分44秒50」だが、落合はこの記録をクリアして、世界の扉をこじ開けるつもりでいる。

「来年の東京世界陸上に出場したいですし、そこで結果を出すのが目標です。将来的には800mという競技で世界大会の入賞や、メダルを獲得できるような選手になれるように頑張りたいです」

 日本勢は男子のミドルディスタンスで世界大会の入賞やメダルはない。それでも今季、自己ベストを3秒以上も短縮した落合が日本中距離界の歴史を変える存在になってくれるだろう。

 

日本男子跳躍勢は全種目で入賞

 落合以外では男子棒高跳の吉田陸哉(関大)が自己新となる5m35と5m40を一発でクリアして、銀メダルを獲得。同走高跳では2m24の高校新でインターハイを制した中谷魁聖(福岡第一高)が2m19で銅メダルを手にした。

「目標が自己ベストとメダルだったので、率直にうれしいです。来年は東京世界陸上もありますが、シニアとの差はまだまだあるので、まずはワールドユニバーシティゲームズを目標にしたいです」と吉田がいえば、中谷も「来年の東京世界陸上、4年後のロス五輪を視野に入れて頑張っていきたい。一番の目標は日本記録(2m35)の更新です」と今後のビジョンを語った。

 日本の男子跳躍勢は棒高跳で村社亮太(日大)が4位に入り、吉田とのダブル入賞を達成。三段跳は金井晃希(順大)が7位、走幅跳は土屋拓人(聖和学園高)が8位に入り、全種目で入賞を果たした。

 男子トラック種目は100mで西岡尚輝(東海大仰星高)が日本勢歴代2位の5位、400mで白畑健太郎(東洋大)が5位、3000m障害で永原颯磨(順大)がU20日本歴代2位の8分30秒27で過去最高位タイの5位に入った。さらに4×400mリレーも5位に食い込んだ。そして10000m競歩は逢坂草太朗(東洋大)が5位、吉迫大成(東学大)が8位のダブル入賞となった。

 女子は800mで久保凛(東大阪大敬愛高)が予選と準決勝をトップタイムで通過。決勝は2分03秒31で日本勢過去最高タイの6位に入った。また5000mで山本釉未(立命大)が6位入賞を果たした。

 ペルー・リマで輝いたジュニア選手たちがシニアでも順調に成長できれば、2028年のロス五輪が面白くなるだろう。