7月の国民の力の党代表選挙の最中に、「総選挙前に、金夫人が“ブランドバッグの授受について国民に謝罪する意向がある”と、韓東勲当時選挙対策委員長に何度もメッセージを送ったが、韓氏が既読スルーした」という内容の記事が出た。尹錫悦派の党代表候補らは一斉に「無礼だ」と韓氏を攻撃した。大統領府の匿名の関係者たちも韓氏への非難に加勢したが、韓東勲候補は65%という圧倒的な支持を受け、決選投票なしで党代表に選出された。

 その後も、大統領府と韓代表との対立は収束することなく、むしろ深刻化していった。そうした中で「左派メディアに韓氏への攻撃をけしかけた」録音ファイルが公開されてしまったのだ。

 しかも、録音ファイルの声の主であるキム・デナム氏は、その後、政府投資機関に天下りし、年俸3億ウォンの監事に就任している。尹大統領周辺の強い意向があったことが疑われる事案だ。

 韓代表は直ちに党に監査を指示したが、尹錫悦派の議員たちは「野党に弾劾の種を提供してしまった」と韓代表を非難し、大統領府は「金氏と大統領夫妻は一面識もない」と関係を否定した。

 このような中でキム・デナム氏は、『ニュースパス』というネットメディアの記者と交わした通話の中で、「首席秘書官は名ばかりで何もできない。現在、大統領室は建希夫人と親しい40代の若い人物たちが掌握している」とも主張した。

総選挙での候補者公認問題にも介入か

 金夫人に対するもう一つの疑惑は、「国民の力」の公認に介入したという疑惑だ。今年5月の総選挙を控え、金夫人が金映宣(キム・ヨンソン)元国民の力議員に選挙区を移して出馬するよう要請したという疑惑だ。

 ただ、金映宣前議員は党の公認を受けられなかったが、ミョン・テギュンという金前議員の側近と金建希夫人が交わしたSNSメッセージが公開され、波紋を呼んだ。野党と左派メディアは、22年の再・補欠選挙の際、金映宣元議員が公認を受ける過程でも金夫人が関与したという疑惑も提起している。ちなみに、公認介入は明白な犯罪で、朴槿恵元大統領も公認介入の容疑で懲役2年の刑を受けている。

昨年12月、尹錫悦大統領とともにオランダを国賓訪問した金建希夫人。右隣はオランダのマキシマ王妃(写真:Backgrid/アフロ)
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 しかも、事件のキーマンであるミョン・テギュン氏は各種メディアとのインタビューで、「大統領選挙当時は頻繁に尹大統領の私邸を訪れ、多くの助言をしてやった。私のほうがもっと優秀だから天空(自称、尹大統領夫婦のメンターと主張する人物)が捨てられただろう。私が捕まれば、ひと月で尹大統領は弾劾される。自信があるなら捕まえてみろ!」等の爆弾発言をしながら世間の注目を集めることを楽しんでいる。