芸術の力で心に青空を取り戻す
展覧会にはこうした胸がひりひりと焼け付くような作品が多いが、心の平穏を取り戻そうと「修復」に務めるブルジョワを知ることもできる。例えば、《青空の修復》(1999年)」という作品。鉛と鋼でできた画面に5つの傷口のような穴が開いているが、ブルジョワはその傷口に布をあてがい、傷口を閉じようと糸で縫い合わせている。ブルジョワはこう語っている。「芸術は正気を保証する」と。
《ビエーヴル川頌歌》(2007年)は、ブルジョワが子供時代に暮らした家の裏庭を流れていたビエーヴル川を題材にしたもの。自分や家族の衣服、日常生活で使用した布製品など、大切な思い出の品々を組み合わせて作品に仕上げている。柔らかな水色が清々しい。
晩年の刺繍作品《無題(地獄から帰ってきたところ)》(1996年)はブルジョワの亡くなった夫が使っていたハンカチが素材。表面に本展のサブタイトルに用いられた「I have been to hell and back. And let me tell you, it was wonderful.」(地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ)というテキストがあしらわれている。
ブルジョワの過去。それはまさしく地獄だったのだろう。彼女は自分自身のことを、逆境を生き抜いた「サバイバー」だと語っている。だが、ブルジョワは決して過去を消し去りたいとは願っていない。過去の出来事や複雑に絡み合う感情を創作へと昇華させてきた。
過去は消えない。すべてをひっくるめて、生きていかなければならない。最後にブルジョワの言葉をもうひとつ紹介したい。「わたしの子供時代は魔法を決して失わない、謎を決して失わない、ドラマを決して失わない」。
「ルイーズ・ブルジョワ展:地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ」
会期:開催中~2025年1月19日(日)
会場:森美術館
開館時間:10:00~22:00(毎週火曜日、10月23日(水)は〜17:00、12月24日(火)、12月31日(火)〜22:00) ※入場は閉館の30分前まで
休館日:会期中無休
お問い合わせ:ハローダイヤル 050-5541-8600