不安定な心を表した《父の破壊》

ルイーズ・ブルジョワ 《父の破壊》 1974年 所蔵:グレンストーン美術館(米国メリーランド州ポトマック) 撮影:Ron Amstutz © The Easton Foundation/Licensed by JASPAR, Tokyo, and VAGA at Artists Rights Society (ARS), New York

 不安定な精神状態は作品に反映されていく。ブルジョワは彫刻を一種のエクソシズム(悪魔払い)、つまり望ましくない感情や手に負えない心の内を解き放つ方法だと信じていた。不安、罪悪感、嫉妬、自殺衝動、殺意と敵意。そうした様々な葛藤や否定的な感情が作品を通して語られている。

 展示作品の中で最も衝撃を受けたのが《父の破壊》(1974年)と題されたインスタレーション。暖炉の内部のような赤い空間の中に食卓が置かれ、その上に内臓や肉片のようなものが並んでいる。これは支配的な父親を殺し、調理して食べることで復讐を果たすという幻想を具現化したもの。ただ、父を憎みながらも、食べることで父と一体化したいと願うブルジョワの複雑な心情も表現されている。

《罪人2番》(1998年)もまた、心に重く響く作品。防火扉に囲まれた狭いスペースはお仕置き用の部屋のよう。壁には鏡や矢印などが設えられており、これは苦しんだり、がっかりしたりした時に向き合うブルジョワ本人の気持ちを表しているという。