同社の推計によれば、データセンターにおける現世代GPUの需要が26年までに2倍になった場合、主要コンポーネントのサプライヤーは、生産量を30%以上増やす必要がある。需要増は、先端パッケージングとHBM(広帯域メモリー)に集中する。同社のシナリオではCoWoS(チップ・オン・ウエハー・オン・サブストレート)パッケージング部品のメーカーは、26年までに生産能力を現在のほぼ3倍にする必要がある。

 AI市場の成長を実現するためには、データセンターやウエハー工場の建設から、先端パッケージングや十分な電力の確保に至るまで、サプライチェーン全体で生産体制を整備する必要がある。しかしそれには長いリードタイムが必要となり、需要に追いつけなくなる可能性がある。

 これらのサプライチェーンの個々の要素は、他のテクノロジーエコシステム(経済圏)とも共有されていることが多い。パンデミック時のように重要なチップが供給不足になれば、エコシステム全体に混乱が生じることになる。

パソコンとスマホ向け半導体需要

 消費者向け電子機器メーカーはAI機能を自社製品に組み込む動きを進めている。 デバイス上のNPU(ニューラル・プロセッシング・ユニット)に対応するために平均的なノートパソコンのCPU(中央演算処理装置)及びスマホ用プロセッサーでは、シリコンの表面積がそれぞれ約5%と16%増加している。

 より重要なことに、AIアプリケーションがますます実用的になるにつれて、新しいデバイスの購入が加速される。パンデミックがパソコン需要を押し上げたように、AIによってPCとスマホの需要が急増する可能性がある。それは、パンデミック時よりも長期に及ぶとみられる。

 これらデバイス向け半導体サプライチェーンにおける脆弱(ぜいじゃく)性は、先端半導体を製造する工場に集中する。23年から26年にかけてパソコン販売が31%、スマホ販売が15%成長した場合、先端工場は生産能力を25%〜35%高める必要がある。実現するには4、5つの工場を新設しなければならず、費用は400億〜750億米ドル(約5兆7900億〜10兆8500億円)かかる。

 ①地政学的緊張、②貿易規制、③多国籍テクノロジー企業のサプライチェーンにおける中国切り離し(デカップリング)、といった動きも深刻なリスクをもたらす。工場建設の遅延、材料不足、その他予測不可能な要因が、供給不足を引き起こすとベイン・アンド・カンパニーは指摘する。