イランから飛来した弾道ミサイルに対抗するイスラエルの迎撃システム(写真:ロイター/アフロ)

イランがイスラエルに弾道ミサイル約180発を打ち込む大規模攻撃を仕掛けたことを受けて、イスラエルがイランの石油関連施設に報復攻撃を仕掛ける懸念が高まっている。原油市場は足元では中国の原油需要の低迷などで供給過剰懸念が高まり下押し圧力が強まっているが、中東情勢次第では一気に1バレル100ドル超えという事態に陥るかもしれない。

(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)

 米WTI原油先物価格(原油価格)は今週に入り、1バレル=66ドルから72ドルの間で推移している。供給過剰懸念と中東地域の地政学リスクが交錯する中、先週以上に上下の振れが激しい展開となっている。

 まず、いつものように世界の原油市場の需給を巡る動きを確認しておきたい。

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 石油輸出国機構(OPEC)とロシアなどの大産油国で構成するOPECプラスは10月2日に合同閣僚監視委員会を開催し、12月から毎月、日量18万バレルずつ生産を引き上げる計画を維持した。

 OPECプラスは世界の原油需要の約6%に相当する日量586万バレルの協調減産を実施しているが、原油価格は上昇するどころか、下落基調となっている。年末にかけて、供給過剰の兆しが出ているのにもかかわらず、OPECプラスが増産に転じる背景には、減産を主導してきたサウジアラビアの不満があることは間違いない。

 減産のせいでサウジアラビアの財政赤字は増加する一方だ。

 サウジアラビア政府は9月30日「今年度の財政赤字は1180億リヤル(320億ドル)と国内総生産(GDP)の2.9%に拡大する」との見通しを示している。

 原油収入が減少しているのにもかかわらず、サウジアラビア政府は支出を増やし続けており、財政赤字は今後も増加することが確実な情勢だ。

 苦境に陥るサウジアラビアにとって許せないのは減産合意を守っていない加盟国だ。

 10月2日付米ウオール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は「サウジアラビアのアブドラアジズ・エネルギー相は会議の場で『OPECプラスの生産制限が守られなければ、原油価格は1バレル=50ドルまで下落する恐れがある』と警告を発し、イラクやカザフスタンの過剰生産を名指しで批判した」と報じた。

 WSJによれば、他の産油国はこの発言を「市場シェアを維持するため価格競争を始める用意がある」とするサウジアラビアの脅しだと受け止めているという。

 OPECは「WSJの報道は誤りだ」と主張しているが、火のないところに煙は立たない。