アマゾンは商品パッケージの破損状態を確認するためにもAIを活用している。このシステムは人間に比べて3倍の効率を発揮するという。

在庫配置と配送ルート予測で「ラストマイル」迅速化

 アマゾンが23年に始めた物流の「リージョナリゼーション(地域化)」は、全米の物流網を8つの地域に分割し、地域それぞれで自己完結するオペレーションに切り替えるというものだ。従来は、米国内の配送網を「ハブ・アンド・スポーク」と呼ばれる放射状の全米モデルで運営していた。新方式ではAIを活用し商品がどの地域でどれだけ需要があるかを予測する。これにより顧客に最も近い倉庫から出荷できるようにし、物流の最終拠点から目的地までの「ラストマイル配送」を迅速化した。

 加えて、20以上の機械学習(マシンラーニング)モデルを使用して、39万人のドライバーが利用する配送ネットワークにおける地図情報の精度を向上させている。「不測の通行止めなどの状況も判断し、より効率的なルートを予測することで二酸化炭素(CO₂)排出量を削減する」と同社は述べ、その意義を強調した。

出品者向けツール、広告、顧客向けチャットボット

 物流業務以外では、同社EC(電子商取引)プラットフォームにおけるセラー(出品者)や買い物客向けサービスでAIを活用している。「Amazon Personalize(アマゾン・パーソナライズ)」と呼ぶAIツールでは、生成AIを使用して、ターゲットを絞った商品説明を作成できる。24年9月には、出品者向けのチャットボット(自動対話システム)「Amelia(アメリア)」も発表した。23年10月には、1億6000万人を超えるPrime会員のデータを利用して、閲覧・検索・購買履歴に基づくターゲティング広告を改良し、出品者の商品プロモーションを支援していると報じられた。

 同社は23年に顧客向けに商品レビューの要約を始めた。加えて、24年2月には商品購入を支援するチャットボット「Rufus(ルーファス)」を追加した。こちらはアマゾンのモバイル向けショッピングアプリで利用できる。

アマゾンの強みはAWS

 アマゾンは傘下にクラウドサービス事業を手がけるAmazon Web Services(AWS)を持つため、AIのワークロードを実行する膨大な数のサーバーを保有している。これにより自社内でAIモデルを訓練することが可能で、これがアマゾンの競合に対する強みといわれる。米調査会社のフォレスター・リサーチのアナリストは「米ウォルマートや米ターゲット、米コストコ・ホールセールといった企業も大量のデータを持っているが、データの捉え方が少し異なり、システムもかなり古い」と指摘する。

 アマゾンは24年4月、生成AI開発の米新興企業、アンソロピック(Anthropic)に総額40億ドル(約5700億円)を出資したと発表した。AWSは自社でAI専用半導体や開発者向け生成AI「Amazon Q」を開発しており、これらの技術をEC業務にも活用している。