*写真はイメージ(写真:milatas/Shutterstock)

 楽しみにしていた中学校に入学したばかりの娘が「とにかくだるくて頭が痛い。寝ていたい」と言って寝込むようになった。あんなに快活だった子が、なぜこんなことに? もしかしたら、新型コロナウイルスのワクチン接種の影響ではないのか……そう頭をよぎったと言うのは、川崎市立井田病院の腫瘍内科医・緩和ケア医、西智弘氏だ。

 ワクチン接種を推奨する立場にある医師の西氏は、その懸念を振り払って冷静に様子を見、医療機関を受診してわかったのは、月経(生理)の不調による症状とのことだった。

 新型コロナウイルスに感染することも、対するワクチンの接種も人類にとって未知の経験だ。その不安の中で原因が特定できない、あるいは漠然とした体調不良はそれらが影響しているのではないかと思いがちになる上、そうでないとも言い切れない。さらに月経が関わる体調不良は人それぞれ違う上に、まだ不安定な10代の思春期は本人も保護者にも初めての体験なので、原因がそこにあるとはわかりにくい。

 コロナワクチンや感染に関してさまざまな情報が飛び交う中で、私たちはどうしたら適切な治療にたどり着けるのだろうか。一連の経験を多くの人に知ってほしいという西氏に聞いた。

急に「うつ病だと思う」と娘に言われ、ワクチンの後遺症を疑った

――一昨年、中学生になったばかりの娘さんが体調不良を訴えられたのですね。

西智弘氏(以下、西) もともと活発な子だったのが中学入学前から頭痛とだるさを訴えて寝込むことがあり、新しい学校生活が始まると吐き気や腹痛、不眠も加わるようになりました。でも、毎日寝込んでいるわけではないし、発熱や下痢もない。食欲がないといっても少しは食べていたので内科的に深刻な状態ではないからと、様子を見ることにしました。環境が変わったことが影響しているのかもしれないとも考えて、無理に登校しなくてもいいよと娘に話したのです。

西 智弘医師(撮影:幡野広志)

 1、2カ月経った頃に娘から「うつ病だと思うから、精神科に連れて行ってほしい」と言われ、とても驚きました。「なんでそう思うの?」と聞くと、娘はインターネットで調べて、いくつも症状が当てはまるから、私はうつ病なんだと言うのです。学校を休む日も増えて、妻と私も「これは何かおかしい」と思い始めていました。その時、「もしかしたら新型コロナウイルスワクチンの後遺症ではないか」と思いました。すぐに「そんなはずはない」と打ち消して対処を考えたのですが、かなり動揺していたのだと思います。

 私自身はワクチン接種を推奨する立場ですが、いざ自分の身内に異常が起きた時に「本当に関係ないと言い切れるのか」と、わずかながら疑念が生じたのです。SNSなどで接するさまざまな賛否の声に影響された部分がけっこうあったのでしょう。そうでなければ、娘の症状とワクチンを結びつけて考えることはなかったと思います。