最大の魅力は「濃厚すぎる対話」

公式トリビュートブック『チ。 ―地球の運動について―』第Q集 作・画:魚豊

 本作の最大の魅力は、極限の緊張の中で交わされる「濃厚すぎる対話」だろう。全く分かり合えない人々が、自分の正当性と正義について巧みに討論するのである。

 聖職者が、拷問吏が、学者が、革命家が、父が、子が、娘が、それぞれの信念と人生を賭けて戦うのだ。……で、結局悲しいことに、誰も分かり合えない。

 この展開はどうやら「弁証法」というものに則っているようだ。乱暴に言えば「正反対の考えをぶつけ合って、新しい考え方を紡ぎ出そうぜ」というアレである。

 それにしても今作の登場人物たちといったら、まあ揃いも揃って、全然話が合わないのである。そのために殺し合いさえ厭わないのだから、お互いに堪ったものではない。

 そして毎回その度に(好むと好まざるにかかわらず)「新しい道」が拓けていく。そういうふうにして物語は流転していくのであるが、この死ぬほど切ない信念と信念のぶつかり合いは、いうまでもなく、有史以来、今現在も世界中で進行中だ。

 そもそも地動説といえば、コペルニクスとガリレオが有名だが、この作品の主軸となるのは、ほぼ全員架空の人物、つまり「名もなき人々」である。読み始めた頃は、いつになったら知の巨匠たる彼らが颯爽と登場するのだろうと思ったが、その予想はあらゆる意味で覆されることになる。

 要するに、これを偉人伝にしてしまうと、この作品の本質から離れてしまうのである。

 なぜか。

 それはこの物語のテーマが「ニンゲンの普遍的な矛盾と葛藤」だからである。「地動説がどのようにして世界に認められたか」ということではないのだ。