強い信念のままに生きることの尊さ

 そもそも、名もなき人々には、天が動こうが地が動こうが、超どうでもいいことである。そんなことを考えるのは多分、面倒臭い変人なのである。ガリレオやニュートンがそうであったようにだ。

 今も、名もなき人は、満天の星空を見上げれば「うわあ」というあの感動だけで十分満足するし、ベテルギウスの寿命や火星の運行など、思いもかけない。しかし、今作の登場人物たちの多くは、この「うわあ」で星空を眺めたりしないのである。

 徹底的に観測し、記録する。そして「動いているのは地球なのだ」ということを証明しようと躍起になり、その一方でそれを抹殺しようと奮闘するのである。

「なぜそこまでして」と読み手は思うかもしれない。それは多分、感覚的には正しい。しかし登場人物たちの思惑や主張の強さ、鋭さに憧れを抱くはずだ。それぞれの信念の強さ(もちろんそれは偏見や思い込みの強さに比例しているのだが)が、それぞれの人生に強い陰影をもたらし、輝いているからだ。そして読者はその妥協なき衝突に強く惹かれるのではないだろうか。

 人生を賭けるに値する強い信念を持てること。それをとても羨ましいと感じるのではないか。

 本作でも大いに語られているが、人間はみな、自分の主観と都合だけを世界の全てにしてしまう生き物である。あらゆる手段でそれを正当化し、押し合いへし合いして生きていかねばならない業の深い存在である。

 そして死ねば皆、土ん中である。諸行無常の世界の中で、何を遺せるのか。名声か、金か、あるいは子孫か。本作に描かれているのはそのどれでもない。ただただ、強い信念のままに生きることの尊さだ。それは登場人物たちの今際の際の描写にも明らかである。

 冒頭にも述べたが、物語は常に意外な展開で終始する。その顛末はぜひお手に取って、あるいはアニメ作品でご覧いただきたい。

 2022年4月の「ビッグコミックスピリッツ」で連載終了したこの作品のコミックス第1集〜第8集は累計百万部を超え、なおかつ10月5日からNHKでアニメが放送開始されるのは嬉しい。アニメ製作は「パプリカ」「サマーウォーズ」などを手がけたマッドハウスだ。

 声優陣も、津田健次郎、坂本真綾、速水奨と大変に豪華だ。「対話」が物語の主軸となる作品なだけに、実力派揃いなのは期待値が格段に違ってくる。

 心の底からお勧めできる作品である。