当時のハロッズが組織ぐるみで隠蔽か、元警察関係者の恫喝も

 ハロッズは2010年、アルファイド氏によってカタールの政府系投資会社に売却されている。報道を受け、同社は声明で謝罪を表明。現在のハロッズはアルファイド氏が所有していた頃とは「全く別の組織」であり、従業員第一で運営していると強調した。被害者への補償を迅速に行うとして、現在の従業員も含み、被害に遭ったと感じている人たちに連絡するよう呼びかけている*2

*2A statement from Harrods in relation to its former Chairman and owner Mohamed Al Fayed(ハロッズ)

 アルファイド氏がハロッズを手に入れたのは1985年のことだ。それから25年もの間、同氏は自身の「領地」で“女性狩り”を楽しみ、無傷で生涯を終えた。BBCに登場した女性たちの証言は、どれも筆舌に尽くしがたい。

 冒頭で記した通り、アルファイド氏は複数の女性従業員らに、性感染症などの有無を調べる検査を受けさせている。会見で証言した被害者の一人は、それが医療的には不要なもので、実際は同氏が女性の「純潔さ」を調べたのだと告発している。

ハロッズは日本人観光客にも人気のデパートだ(写真:ロイター/アフロ)

 番組に出演した別の女性は、検査結果を得たアルファイド氏が非常に不機嫌な様子で、性感染症にかかっているとして女性を「汚い売女」と罵ったと話した。清掃用の消毒液で洗えと脅された上、治療のため毎晩服用しろとある薬を渡された。女性がその薬を調べると、それが強い鎮静剤だったことが判明した。

 女性は、職務のため同行していた別荘で、アルファイド氏がこの薬を飲ませて女性を昏睡状態にし、強姦しようとしたのではと証言している。

 英国ではかつて、幼児や死体にまで性的暴行を加えた「ジミー・サヴィル事件」があった。サヴィルの手にかかった被害者は450人に及ぶとも指摘されている。サヴィルが数十年もの間性的暴行を継続できたことの背景は、BBCの著名司会者としての立場や、王室との関係などによる周囲の忖度が指摘された。

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 これに対しアルファイド氏の事例は、同氏やハロッズ関係者らによる積極的な隠蔽工作がBBCの放送で明るみになっており、その内容はかなり悪質だ。報道によれば同氏に仕えた元警察関係者の警備員らは被害者を監視したほか、告発を試みた女性たちに「突然の事故に気をつけろ」「お前の親の居場所はわかっている」などと脅迫していたとされている。ハロッズ内での盗聴器などの存在も噂されていたという。

 絶大な富と権力を盾に女性たちを餌食にしていたというアルファイド氏とは、どのような人物だったのか。