「遺言として3000万円」の一筆を拒んだ早貴被告

 この年の10月、早貴被告と大下さんは、吉田氏をまじえ都内で食事をしている。この時の様子を吉田氏が証言する。

「私は傍らのバッグからA4の白紙を取り出して早貴の前に置いて『〈大下さんに3000万円を上げると社長から頼まれました〉と住所・氏名を付け加えて書いてよ』と求めました。このことは大下さんには相談していません。ただ『ワシが亡くなったら大下さんに1000万円を上げてくれ』という“遺言”は会社の皆が聞いているのに、ドン・ファンが死んでしまった以上、証拠となる文書がなかったのでその“約束”は履行されていなかった。

 ドン・ファンの生前、私は大下さんに『文書にしなもわらないと遺産は貰えないよ』とアドバイスをしていたのに、彼女はドン・ファンが怖くて言い出すことができなかったんです。だからその轍を踏まないようにさせたかったんです。

 だけど、『大下さんに3000万円を渡してくれ、と言われていた』としていた早貴被告は、紙を前にした途端、黙り込んでしまいました。しばらくしてようやく『弁護士に相談しないと……』と言い出したので『キミが言ったことをそのまま書いてくれればいいんだよ』と言いました。それから2、3分間は黙って下を向いていた早貴被告は『書けません』と申し出を断りました。

 きっと早貴被告は、ドン・ファンが殺害された日に大下さんには“大事なシーン”を目撃されてはいなかったと察知していたのではないでしょうか。人のいい大下さんは『いいのよ、いいのよ』と場を和ます発言をしていましたが、このとき、早貴被告の企みが垣間見えたように感じました」

 検察の冒頭陳述によれば、スマートフォンのヘルスアプリを解析した結果、早貴被告は犯行時間帯に少なくとも8回、2階に上がったとしている。事実とすれば、その行動は何を意味しているのか。もしも、覚醒剤を摂取した野崎氏が苦しんでいるのを見るため、それとも死んだのを確認するために2階に上がったのだとすれば、鬼畜の所業と言わざるを得ない。

 そしてその様子を大下さんに見られた可能性があったからこその「3000万円発言」ではなかったのか……。

 まだまだ審理は続くが、早貴被告は極めて苦しい立場に立たされている。