創業社長が突如解任

 それだけではない。

 O氏は、華為とは別の「Amパワー」なる中国企業が開発した「全個体電池」をAPBの工場で製造することも持ちかけてきた。全個体電池は全樹脂電池とは違い、一部に金属部品が使われる。そのAmパワー製の全個体電池を欧米に輸出しようと目論んだのである。要するに、米国の対中規制逃れにAPBを利用しようとしたわけだ。

 不信感の塊となった堀江社長は、T社の調査をセキュリティ会社に依頼した。その結果、社長のY氏、副社長のO氏ともども、華為、Amパワーの親会社の本社がある広東省深圳市を頻繁に訪れていることが判明した。

 当然、堀江社長はO氏からの申し出に首を縦に振らなかった。すると、O氏は強硬手段に打って出たのである。

 今年の6月20日、O氏はAPBの取締役会を開催し、堀江社長解任決議の提案に踏み切った。取締役会5人のうち、T社からAPBに送り込まれたのはO氏含め2人。さらに、三洋化成工業出身の取締役を合わせた3人の賛成で解任決議は成立した。続けて、O氏らはAPBの事務所から、堀江社長の実印を奪い取ろうと、金庫をドリルでこじ開けようとする騒動まで起こしている。APBの従業員が110番通報し、警察官5人が駆け付ける有り様だった。

 APBは、「川崎重工業」と次世代潜水艦向け蓄電池の開発も進めている。中国への全樹脂電池の技術流出は、経済安保上の重大なリスクを伴う。