キャサリン英皇太子妃は9月9日(現地時間)、がんの化学療法を終えたことを発表。SNSで公開したウィリアム皇太子ら家族との暮らしを切り取った映像に賛否両論が巻き起こっている。大手企業のテレビCMなどを手掛ける監督による映像が、あまりにも美しく作り込まれているからだ。「王室広報の新しい手法」と評価する見方がある一方、「まるでシャンプーの宣伝」といった批判の声も上がる。映像を見た者が抱く「違和感」の正体とは。
(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)
ウィリアム英皇太子とキャサリン妃は9月15日、チャールズ国王の次男・ヘンリー王子の40歳の誕生日を祝うSNSの投稿を行なった。ヘンリー王子は2020年に公務を退き、米国人の妻・メーガン妃と2人の子供と共に米国で暮らしている。
夫妻の投稿は同日、王室が先に投稿したものを引用する形で行われた。弟の40歳の節目の年を祝うという何気ないこの投稿が注目を集めたのは、王室が去年、一昨年と、ヘンリー王子の誕生日を公に祝わなかったからだ。
英テレグラフ紙は、王室が公式に誕生日を祝うのは、公務についている王室関係者のみという王室筋の話を紹介した。それにもかかわらず、王子が公務を退いた後の2021年には、誕生日を祝ったという矛盾を指摘している。
ウィリアム皇太子とヘンリー王子の間の確執は近年よく報じられているが、今回の投稿が皇太子側によるヘンリー王子夫妻に対する和解の提示か、はたまた新たなメディア戦略なのかと、様々な憶測が飛び交っている。
しかし、ウィリアム皇太子夫妻による「新たな戦略」として今月、より大きな物議を醸した別の投稿がある。9月9日(現地時間)SNSに投稿された、キャサリン妃が受けていたがんの化学療法が終了した、と報告する動画だ。
A message from Catherine, The Princess of Wales
— The Prince and Princess of Wales (@KensingtonRoyal) September 9, 2024
As the summer comes to an end, I cannot tell you what a relief it is to have finally completed my chemotherapy treatment.
The last nine months have been incredibly tough for us as a family. Life as you know it can change in an… pic.twitter.com/9S1W8sDHUL
キャサリン妃がナレーションも務める3分余りの動画は、夫妻の結婚10周年の動画も手がけた監督によって制作されている。同監督は大手スーパーやPUMAなど、大手企業ブランドの動画制作も担当してきた。
全体的にセピアがかった映像と古いフィルムを思わせる加工やスローモーションなどが駆使された映像では、森林や海辺などで夏のひと時を楽しむ皇太子一家の様子が映し出されている。一家の何気ない日常が描かれている印象を与え、実際幼いジョージ王子ら3人の子供たちは両親と共に楽しそうにはしゃぎ、ごく自然な子供らしさを見せている。
その上に「ようやく化学療法を終えた安心感は、言葉では言い尽くせない」「がんがもたらす道のりは誰にも、特に近しい人たちにとって複雑で恐ろしく、予測不可能なもの」「人生において見過ごしがちな沢山の、シンプルで、しかし大切なことを、ウィリアムと私に再考させた」などというキャサリン妃のナレーションがかかっている。
まず記しておきたいが、キャサリン妃が化学療法を終え、回復に向かっているという情報は喜ばしいことだ。英国民も概ね、この報告を好ましく受け止めている。
キャサリン妃は今年3月、やせ細った痛ましい姿で一人ベンチに座り、自身ががん治療のさなかにあることを告白する動画を公開した。今年初めに腹部手術をしたという情報以外、王室が詳しい病状について正式発表せず、キャサリン妃が公務から消えてしまったことで「皇太子が不倫しているのではないか」「実はすでに亡くなっているのでは」などという、国内外で卑劣な誹謗中傷に晒されていた。当時の動画公開は、こうした経緯もあってのことと推察されている。
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しかし、筆者は映像制作者の視点から今回の動画を初めて見た際、3月の動画とは異なる、言いようのない違和感に晒された。この映像が「王室の公式発表」という現実なのか、キャサリン妃の日記のようなファンタジー、あるいはインフルエンサーとしてのCM動画なのかなど、どう分類して良いのかが掴みきれなかったからだ。
そして、ある種の危うさも感じた。この動画が、ある明確な意図を持って皇太子一家像を「作り込みすぎている」感覚があったからだ。