学校が持つ、教育格差を緩和するポテンシャリティ

 この授業を京大新入生に向けて開講した趣旨は、連載第2回で詳述した。授業後レポートからもわかるように、受講した学生たちは、自分たちが「生まれ」による有利さを持っていること、そして、いまのポジションは自分の努力のみで獲得したものではないことに、気づいたようだった。

 本連載を終えるにあたって、最後にあらためて言及しておきたいことがある。それは、学校はけっして、格差を助長するだけの存在ではないということだ。

 筆者はこの連載のなかで、「『階層の再生産』に一役買っている高校制度」(第2回)や「地方進学校の『地元国立大志向』が教育格差を生み出す」(第4回)などの表現を用いて、学校が教育格差を再生産する構造に、批判的に言及してきた。

 しかしながら、授業で用いた教科書『現場で使える教育社会学──教職のための「教育格差」入門』では、学校の持つ教育格差を緩和するポテンシャリティにも、紙幅が割かれている。

 たとえば、ももかが第4講の議論において言及していた「学校プラットフォーム」構想は、学校を子どもの貧困問題の改善に資する拠点とする政策パッケージであり、政府の「こども大綱」(2023年)のなかに位置づけられている。

 この例もそうだが、理念に見合うだけの財政措置が伴っていないことなど、課題は多々ある。ただ、条件整備のしかたしだいで、教育は「社会を悪い意味で維持する」装置にも「社会を変える」装置にもなり得るのだ。このことを、最後に強調しておきたい 。

(連載・完)

※授業のレコーディングや文字起こしの確認は、ティーチングアシスタントの重定みのりさん(京都大学大学院)が担ってくれた。本連載は彼女、そして受講してくれた15名の学生がいなければ成立しなかった。記して、感謝の意を表します。