死を描きながら、穏やかで、ほんのり温かい

 母親の書いた素晴らしい小説の世界を娘が素敵に膨らませている。一緒に仕事ができるだけでなく、表現者として、互いに高め合って、一つの作品を作り上げ、喜びを共有できるとはなんと理想の母娘関係なのだろうか。

 監督曰く、「10代の私は、母に何度もひどい言葉をぶつけていました。その頃に母が書いていた物語に、今は救われているので、母親は偉大です」。

 原作者の母もまた「役者さんの繊細な表情や声に寄り添うやさしい映像に、自分でも驚くくらい自然に入り込んでいました。亡くなった人の心を想像しながら書いていた時のことをずいぶん思い出しました。ついでに、かほりが生まれてから今日までのことも、ずいぶん思い出しました」と娘に賛辞を送る。

 撮影現場での2人の姿が目に浮かぶような、なんとも羨ましい関係性である。

 偉大な母と豊かな感性の娘のコラボが生み出した『とりつくしま』。死を描きながら、穏やかで、どこかほんのりと温かい。死や亡くした人をぐっと身近に感じられ、故人たちのことはもちろん、自分の死についても考えずにはいられない。自分ならどうするだろう。生きる上で、決して避けて通れない死を闇雲に怖がらなくても良いような、そんな不思議な作品だ。


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『とりつくしま』

9⽉6⽇(⾦) 新宿武蔵野館ほか全国順次公開

監督・脚本:東かほり

原作:東直⼦『とりつくしま』(筑摩書房)

出演:橋本紡 櫛島想史 ⼩川未祐 楠⽥悠⼈ 磯⻄真喜 柴⽥義之 安宅陽⼦ 志村魁 ⼩泉今⽇⼦

エンディング曲:インナージャーニー「陽だまりの夢」

制作:Ippo 製作・配給:ENBUゼミナール

http://toritsukushima.com/