アユの香りが消え、温泉の観光客も減少
しかし、懸念した通りのことが起きていると下山さんは言う。ダム建設後、川の環境は激変した。その事実は釣り客の激減に如実に表れている。
「最上小国川には1カ所で30匹(アユが)釣れる場所が無限と言っていいくらい、どこにでもあったんだよ。そういう場所が今は2割。あと8割はなくなってしまった」と嘆く。
最上小国川のアユは、香りも味も姿もよく、明治天皇に献上されたことで有名だ。毎年、いくつものアユ釣り大会で賑わう。
「釣れればお客さんが集まる。みんな、釣れるところはないか探しているからね。北海道からでも九州からでも来る。釣れなくなれば、その情報もまた伝わる」というのだ。
単に数だけの問題ではない、ともいう。下山さんは、おとりアユを入れた生簀を前に、「いいアユだと、蓋を開けた時にフワっといい香りがするんだけど、今はしなくなった」とダム建設前後の違いを指摘する。
ダムができて川が長期にわたって濁り、細かな砂が付着した苔を食べたアユは、「味も違うけど、香りも違う。これがわかる人って少ないんだ」というのだ。
一方、ダム建設のメリットとして期待されていた地域振興もアテが外れてしまったことをデータで示してくれたのは、清流を守る会の阿部修さんだ。現役時代は研究職で、博士号を取得した阿部修さんは、データの扱いはお手のものだ。
赤倉温泉とその約18km下流の瀬見温泉の観光客数(下グラフ左軸)と釣り客数(グラフ右軸)を比較してみたところ、瀬見温泉の観光客数は、新型コロナの緊急事態宣言後は回復した一方で、赤倉温泉ではダム工事開始後から減り始め、コロナ後も釣り客同様、今も回復しきっていない。
「赤倉温泉や最上町長が、観光振興につなげたいとダムの早期完成を県知事に要望した時代もありましたが、観光客数で比較すると、役に立ったとは言えません」(阿部さん)