監督業の原点「栗の樹ファーム」の自然

栗の樹ファームは、栗山町の町民とともに作り上げた

 この冬は、例年より早く雪が降ってしまったため、樹木を積雪や冷気から保護するための「冬囲い」が間に合わなかった。

 木は守ってあげないと、ネズミが木の幹を噛んで、水があがらなくなって枯れてしまう。このままではいけないと思って、急いで冬囲いの準備をした。

 自然というのは、手を加えてやったら、加えた分だけ返してくれる。すぐには返してくれないけど、いつか必ず返してくれる。

 3年前に蒔いた種が出てきたりだとか、2年前に肥料をあげた芝がとてもよくなっていたりだとか。でも、やっぱり時間はかかる。

 実はこれが、自分の監督業の原点になっている。選手を信じて、本当に尽くしていけば、いつか必ず反応してくれるはずだという信念は、栗の樹ファームで接してきた自然に教えられたことだった。

 栗山町に来て十数年、草木に向き合ってきたことが、間違いなく、いまの自分を作ってくれている。もし優勝の一因が自分にもあるとすれば、それは自然が教えてくれたことなのだ。土と一緒になったことが、僕を変えてくれた。

 だからいま、一番気を付けているのは「慣れ」。本来、自然というのは慣れるものではなく、毎日どんどん変わっていくものだ。人間は、それに対応していかなければいけない。

 選手に対してもそう、変に慣れないほうがいい。そのためにも、2年目は、1年目以上に緊張感を持って、初々しく取り組まなければいけないのだが、それは意外と簡単なことではない。

 なぜなら、人は去年と今年を比べることができるから。だったら、どうするか。もっと必死に選手に向き合う。それしかしかないと思っている。

『監督の財産』栗山英樹・著。9月9日刊行