日本の警察の弱点

甲斐:警察と特殊詐欺の闘いは長く、すでに20年以上になります。2000年頃にまず「オレオレ詐欺」というものが出てきました。これが特殊詐欺の始まりと言われています。数年後には、他の形態の詐欺も複数出てきます。オレオレ詐欺を含む4類型を、当時は「振り込め詐欺」と呼びました。

 現在は、この4類型を含む10類型が「特殊詐欺」と呼ばれています。最近は「SNS型投資詐欺」と呼ばれる詐欺が横行していますが、これは今のところ特殊詐欺にはまだ含まれていません。

 SNS型投資詐欺は、今年の1月から5月までの被害総額がおよそ430億円です。年間では特殊詐欺の被害総額の倍くらいになる可能性があります。警察は特殊詐欺もSNS型投資詐欺もまだ抑え込めていません。

 なかなか特殊詐欺を取り締まることができないのは、地方の高齢者が騙されて、騙し取られたお金が首都圏のATMからおろされるからです。日本の警察は都道府県ごとに捜査をしていますので、広域捜査が弱点なのです。

 熊本県警が被害を認知したら、捜査をするのも熊本県警です。しかし、犯人が東京にいたら、熊本県警は東京に足場がない。こうした状況があり、今までずっと特殊詐欺を封じ込めることができずにいたのです。

 もちろん、地方の警察署が警視庁に捜査を嘱託して、防犯カメラの画像を調べてもらうことは可能です。しかし、依頼を受けた警視庁も忙しいので、手持ちの事件の対応を優先してしまい、時間がかかっているうちに、防犯カメラの画像が上書きされてなくなっていたこともありました。

 こうした状況に対してなんとかしようと、2003年に「首都圏派遣捜査専従班」というものが作られました。地方の警察本部から1人ずつ警視庁に出してもらって、地方から嘱託を受けたら、防犯カメラの確認など、初動の対応だけはまずその人たちがやるという捜査体制を組んだのです。

 ただ、初動捜査だけでは十分に対応できません。そこで、この問題を解消するために、今年4月から「特殊詐欺連合捜査班(TAIT)」という捜査体制を作りました。

 7都道府県警に500人体制でTAITを組織し、地方から捜査の嘱託を受けた事件で初動から容疑者逮捕まで、東京などでTAITが面倒を見る体制です。こういう組織ができたのは戦後初めてのことです。

 4月から始めてすでにTAITによる検挙事例も出てきています。これがどれだけ結果を出すか、注目しています。

長野光(ながの・ひかる)
ビデオジャーナリスト
高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。