神戸連続児童殺傷事件で犯人逮捕に至った経緯

甲斐:この事件でいえば、遺体の一部が学校の校門に置かれていたことがよく知られています。当時の兵庫県警の刑事部長は、遺体の置き方を見て、「この犯人は目立ちたいという意識が強い」と考えました。

 警察の捜査の様子を確認したい。あるいは、世間の人が見に来ているかを確認したい。そういう意識から刑事部長は「犯人は現場に戻ってくる」と予測を立てたのです。

神戸連続児童殺傷事件で男児の遺体の一部が置かれていた中学校の校門(写真:共同通信)神戸連続児童殺傷事件で男児の遺体の一部が置かれていた中学校の校門(写真:共同通信)

 現場に戻ってきた犯人に接触する方法は職務質問しかありません。そこで刑事部長は「現場周辺を歩いている人たちには全員職質しよう」と捜査会議で指示したのです。皆に話を聞けば、犯人に当たる可能性がある。そして、実際に犯人に当たりました。

 遺体には、警察に対する挑戦状が添えられていたのですが、捜査一課の巡査部長が、現場近くにいた中学生に職質したところ、挑戦状に書かれている文言をその少年はスラスラと暗唱したそうです。これはおかしいということで、捜査線上に少年の名前が載りました。

 その後、犯人から神戸新聞に挑戦状が送られてきます。その中に「警察はもっとちゃんと捜査しろ」というようなことが書かれており、それを知った刑事部長が「警察はすでに犯人に職務質問しているのではないか」と考えて、捜査員たちが職質で集めた情報を精査したら、先の中学生の情報が上がりました。

 少年は「被害者のことを知っているか」と巡査部長に聞かれた時に「知らない」と答えていた。でも、被害者はこの少年の家に遊びに来ており、嘘をついていました。これは怪しいというわけです。

 ただ、容疑者が中学生というのはあまりに社会的影響が大きく、情報が漏れたら大騒ぎになる。捜査本部の中でも、ほんの一部の人間だけで情報を共有して、慎重にこの少年を調べ、逮捕に至りました。

──本書の後半部分では、特殊詐欺と警察の闘いについて書かれています。特殊詐欺を集中的に捜査する専門部隊「特殊詐欺連合捜査班(TAIT)」の発足について書かれていますが、どういう組織なのでしょうか?