髪の毛が1本あれば何回でもDNA型識別が可能

甲斐:警察庁の科学警察研究所(科警研)が1989年にDNA型鑑定の実用を始め、警察に広く導入されるようになりました。最初は、1000人に1.2人程度の識別率でしたが、2003年に検査方法が変わり、識別精度が1100万人に1人の確率で個人を識別できるまでになりました。

 3年後の2006年には、分析する染色体の部位を増やしたことで、4兆7000億人に1人の識別率となり、さらに2019年には、検査で使う試薬を新しいものに変え、「フラグメントアナライザー」と呼ばれる識別装置を新しくした結果、なんと565京人に1人にまで識別率が向上したのです。

──しばしば「DNA鑑定」と言いますが、正確には「DNA型鑑定」なのですか?

甲斐:そうです。現場に残された血液、毛、汗、唾液などからDNA型を識別する技術です。人間がそこにいた痕跡を消して、その場を離れることは難しい。指紋でさえ脂が付きます。ということは、被疑者がそこにいれば、その事実を明らかにすることができる。

 採取の方法も年々向上して、ほんの1滴分の血液や、髪の毛1本があれば、DNA型鑑定を何回でも行えるようになりました。

──しかし、鑑定して一致させるためには、対象となる人の生体データを、そもそも警察が持っていなければならないですよね?

甲斐:過去に逮捕された容疑者は、唾液の採取などからDNA型情報が警察にあります。これが「容疑者DNA型データベース」です。また、事件現場に残された髪の毛や血痕などがあれば、それを採取して「遺留物DNA型データベース」という形で警察に保管します。

 そこでまず、事件現場で採取した血痕などのDNA型と、警察に保管されている遺留物DNA型データや容疑者DNA型データとの間で一致するものがないか、分析を行います。

──よく刑事ドラマで、警察が怪しいと思った人と面会し、面会後にその人が落とした髪の毛やコーヒーカップなどを持って帰り、DNA型鑑定に回すという場面があります。