貧困層が共和党に期待する「古き良き強いアメリカ」

【図表】アメリカの政党マトリクス。これで、民主党、共和党、トランプ支持者の大まかな分布が一目瞭然!【図表】アメリカの政党マトリクス。これで、民主党、共和党、トランプ支持者の大まかな分布が一目瞭然!

 先述した通り、共和党は個人主義で自由競争を良しとする「小さな政府」。今日でいう保守です。南部や中西部で比較的支持が強く、最近は従来の保守的な富裕層に加え、白人労働者層からの支持が厚くなっています。よく知られる通り、ゾウがトレードマークです。

 民主党は「大きな政府」で、現代のリベラル。国がある程度市場に介入し、福祉や社会保障制度を整え、「マイノリティの権利を保護しよう」という理念があります。

 ニューヨークなど東海岸、ロサンゼルスやサンフランシスコなどの西海岸のリベラルな富裕層や高学歴者、人種や性のマイノリティからの支持を集めています。ロバのシンボルは19世紀からです。

 米国が抱えている経済格差と人種間の分断をなくすために、各党はそれぞれ違うアプローチを試みています。

 共和党は「個人にも企業にも税金は安くするから、自由競争で頑張って豊かになってください」という方針で、これは経済的な強者に有利な政策です。なぜなら自由競争を通じて富める者はますます富むのが資本主義というもの。また、法人税が抑えられるのは、大企業の経営者や富裕層であるほど都合が良く、願ってもない話です。

「中西部や南部、特に高卒の白人労働者に共和党支持者が多い」と言われるのは、彼らも大企業と同じく恩恵を受けられた時代がかつてあったから。「我が家はあの伝統的大企業の一員なんだぞ!」と胸を張り、給料は上がり続け、ブルーカラーワーカーとして安定した一生を送ることができたのです。

 しかし今さら述べるまでもなく、彼らが「我が家もこの会社の一員だ!」と自負していた大企業は、悲しいことに彼らを「ただの労働力」と見なしていました。工場の海外移転、ITの進展などで仕事を奪われ、人生のシナリオが狂ってしまったのです。

“今まで通り”が通じなくなった彼らは、いまや経済的には中間層から下層へと没落。“新しい貧困層”の誕生です。実際に白人労働者が多い地域では、薬物依存者やアルコール依存者が増えていると言われています。

 それでも新しい貧困層は「古き良き強いアメリカ」を打ち出す共和党を支持します。

「民主党にはうんざり。人種差別はだめとか、環境に優しくとか、移民にも理解をとか、きれいごとばっかり。昔のアメリカに戻してほしい」

 経済的に不遇な人は社会に対して不満を持ちやすく、反対分子となりやすい。不満の矛先は社会や政府に向かいますが、同時に「犯人探し」も始まります。

 そんな中、手っ取り早く“犯人”に仕立て上げられる者は、自分たちと異なる誰か。たとえば人種や民族が異なる者、宗教が違う者、性的志向が異なる者です。「彼らが自分たちの仕事を奪い、古き良きアメリカを変えてしまった」と憎むのです。

 インターネット社会になり、ソーシャルメディアで自分に政治的な立場の近い人の発信や、自分に都合のいい情報にしか触れない状況も出てきました。偏った情報だけに触れていると、思い込みがその人の中では真実になってしまう。巧妙なフェイクニュースを信じ込む事件も増加し、ますます分断は深まりつつあります。