民主党支持者の55%も反対している「積極的差別是正措置」

 NHKが紹介している英国の大手調査会社ユーガブと米国のCBSテレビの世論調査によると、「アファーマティブ・アクションは容認されるべきでない」とした共和党支持者は82%。個人主義で自由競争を好む共和党らしい答えといえばその通りです。

 しかし注目したいのは民主党支持者の意見で、同じく反対とする人が55%もいました。つまり人種の平等と多様性の尊重を理念とするはずの民主党支持者でも、半分は「自由に競争するのが平等だ」と考えている……。政府の過度な介入を嫌い、小さい政府を志向する米国の特性が現われているように感じます。

「白人だから有利なんて過去の話だ。今は黒人だってアジア人だって金持ちがいるじゃないか。みんな生活がキツくてギリギリなんだ。もう、不利な人種だからって上げ底してやる余裕なんてない。みんなで競争しようよ!」

 これを新しい時代の公平さでありダイバーシティとするのか? 各党内でも意見が分かれるところでしょう。

 余談ながら、複雑な米国大学の入試システムでは“レガシー”という特別枠もあります。親や家族がその大学の卒業生であれば優先的に入学できるというエリート優遇措置とも言えるもので、「先に撤廃すべきは、そっちじゃないの?」という声も上がっています。

 いやはやまったく、公平は難しい。公平性の追求から生まれたのがかつての社会主義ですが、自由主義を重視する米国では「自由競争こそ公平だ。社会主義はその対極にある、とんでもない仕組みだ」というのが一般的な感覚です。

 第二次世界大戦後、諜報活動が凄まじかった冷戦下、「政権に共産党のスパイが潜り込んでいる!」と忌み嫌われた時代ほどではないにせよ、社会全体としては“社会主義アレルギー”がまだ強くあります。

 そんななか「民主党左派」と言われるバーニー・サンダースのような社会主義に近い政策を訴える人もいて、知識層や若い人たちを惹きつけています。

 本当の自由、真の公平さとは何か―単純に答えが出ない時代に、共和党も民主党も改めて政策を問われるようになるでしょう。(続く)

山中俊之(やまなか・としゆき)
著述家/芸術文化観光専門職大学教授

 1968年兵庫県西宮市生まれ。東京大学法学部卒業後、1990年外務省入省。エジプト、イギリス、サウジアラビアへ赴任。対中東外交、地球環境問題などを担当する。首相通訳(アラビア語)や国連総会を経験。外務省を退職し、2000年、日本総合研究所入社。2009年、稲盛和夫氏よりイナモリフェローに選出され、アメリカ・CSIS(戦略国際問題研究所)にて、グローバルリーダーシップの研鑽を積む。
 2010年、企業・行政の経営幹部育成を目的としたグローバルダイナミクスを設立。累計で世界96カ国を訪問し、先端企業から貧民街・農村、博物館・美術館を徹底視察。ケンブリッジ大学大学院修士(開発学)。高野山大学大学院修士(仏教思想・比較宗教学)。ビジネス・ブレークスルー大学大学院MBA、大阪大学大学院国際公共政策博士。京都芸術大学学士。コウノトリで有名な兵庫県但馬の地を拠点に、自然との共生、多文化共生の視点からの新たな地球文明のあり方を思索している。五感を満たす風光明媚な街・香美町(兵庫県)観光大使。神戸情報大学院大学教授兼任。
 著書に『世界94カ国で学んだ元外交官が教える ビジネスエリートの必須教養 世界5大宗教入門』(ダイヤモンド社)。近著は『世界96カ国をまわった元外交官が教える 外国人にささる日本史12のツボ』(朝日新聞出版)。