米国選挙をややこしくしている「選挙人団」

 11月の大統領選一般投票で、人々は「トランプ」「バイデン」など、二大政党から出馬している大統領候補を直接選びます。……と、ここで終わればシンプルな直接選挙なのですが、米国には「選挙人団」があります。

 選挙人とは、最終的な投票を行う人たち。人数は州ごとに「上院議員2人と下院議員の議席数を足したもの。ただしワシントンDC(コロンビア特別州)は3人」と定められており、全国でトータル538人。選挙人が一番多いのは最大人口のカリフォルニア州で55人。アラスカやモンタナなど人口が少ない州は3人しかいません。

 各党はあらかじめ選挙人候補538人をそれぞれ選んでいますが、憲法で「現役の連邦議会議員や政府の公職者を選挙人にしてはいけない」と定められているため、顔ぶれは元有名政治家、地元の活動家、有力党員などさまざま。軍関係者やビジネスパーソンもいます。

 正式な選挙人は、直接投票による大統領選の結果で決まります。たとえばX州の一般選挙で共和党の大統領候補者が勝てば、共和党の選んだ選挙人が、最終的に投票する「X州の選挙人団」となります。

「えっ、X州は共和党と民主党が6:4で接戦なんだけど?」という場合でも、「じゃあ、選挙人も共和と民主の6:4で」とはならない州が多数です。

 一般に「勝者総取り」というルールのもと、6割で勝利した共和党がX州の選挙人を独占するのです(州によって方法が異なります)。日本でもよく取り上げられる各州の接戦は、このプロセスを指しています。

 直接選挙は国民投票ゆえに凄まじい数なので、人口が多い州では集計違いも起こりますし、僅差の接戦の場合は再投票ということもありえます。ここでまた「集計がおかしい!」と揉めることも少なからずあるのは、米国選挙戦のニュースの風物詩です。

 そして、選挙人は自分の州の選挙結果に基づいて12月に投票します。州の結果に関係なく自分の意向で勝手に投票する「不誠実な選挙人」もゼロとは言えませんが、いてもごく少数でしょう。選挙人票を多く獲得した候補者が、最終的に米国大統領となります。

 手続きとしては、1月の上下院の合同会議で正式確定となります。その上下院の正式確定に対して異議を申し立てたトランプ大統領の支持者が、2021年1月に議会に乱入した事件は世界に衝撃を与えました。

2021年1月、大統領選における上下院の正式確定に異議を申し立てたトランプ大統領の支持者が議会に乱入。世界に衝撃を与えた(写真:ロイター=共同)2021年1月、大統領選における上下院の正式確定に異議を申し立てたトランプ大統領の支持者が議会に乱入。世界に衝撃を与えた(写真:ロイター=共同)

 選挙人団の性質上、二大政党以外の政党が選挙人団を持つことは難しい。したがって大統領選が“民主と共和の一騎打ち”になり、無所属や小さな第三の政党から大統領が誕生するのは難しくなります。

 米国大統領選挙は「直接投票に見えて間接投票でもある」という、日本人から見るとややこしいシステムです。

 また、米国の多くの州では、大統領選において共和党と民主党のいずれが強いかが決まっています。

 たとえば、ニューヨーク州やカリフォルニア州は民主党の鉄板の基盤です。一方で、テキサス州は共和党が圧倒的に強い地盤です。いずれが勝利するのかが不明の州がスウィング・ステート(接戦州)と呼ばれ、それらの州の選挙人団の獲得が、大統領選では特に焦点になります。(続く)

山中俊之(やまなか・としゆき)
著述家/芸術文化観光専門職大学教授

 1968年兵庫県西宮市生まれ。東京大学法学部卒業後、1990年外務省入省。エジプト、イギリス、サウジアラビアへ赴任。対中東外交、地球環境問題などを担当する。首相通訳(アラビア語)や国連総会を経験。外務省を退職し、2000年、日本総合研究所入社。2009年、稲盛和夫氏よりイナモリフェローに選出され、アメリカ・CSIS(戦略国際問題研究所)にて、グローバルリーダーシップの研鑽を積む。
 2010年、企業・行政の経営幹部育成を目的としたグローバルダイナミクスを設立。累計で世界96カ国を訪問し、先端企業から貧民街・農村、博物館・美術館を徹底視察。ケンブリッジ大学大学院修士(開発学)。高野山大学大学院修士(仏教思想・比較宗教学)。ビジネス・ブレークスルー大学大学院MBA、大阪大学大学院国際公共政策博士。京都芸術大学学士。コウノトリで有名な兵庫県但馬の地を拠点に、自然との共生、多文化共生の視点からの新たな地球文明のあり方を思索している。五感を満たす風光明媚な街・香美町(兵庫県)観光大使。神戸情報大学院大学教授兼任。
 著書に『世界94カ国で学んだ元外交官が教える ビジネスエリートの必須教養 世界5大宗教入門』(ダイヤモンド社)。近著は『世界96カ国をまわった元外交官が教える 外国人にささる日本史12のツボ』(朝日新聞出版)。