会社の始業は午前8時半。定時は午後5時15分である。午後9時ごろまで残業するのが通例だった。

 午後9時ごろ、退社の打刻を一旦するが、仕事はここで終わらない。新入社員は、会社の運動会、夏祭り、忘年会、送別会の準備をさせられるのだ。これらはすべて業務外扱いだった。

 準備の仕事は煩雑だった。会社が開く夏祭りは地域住民を招いたものであり、人事部として出店する。真理さんが「タピオカミルクティーを出したい」と提案すると、上司から「何を考えているんだ」と2時間叱責された。「大人が楽しめるものを選べ」というその上司からの指示で、さつま揚げを売ることになった。

 夏祭りの出店準備、運動会の出し物のダンス、忘年会の余興…。月の平均残業時間は45時間だったが、業務外扱いの仕事が月に50時間はあった。打刻した残業時間と合計すると、「過労死ライン」とされる100時間近くになっていた。

 真理さんは元々スリムな体型だが、ご飯が喉を通らなくなり、8キロ痩せた。常に腹痛を抱えていた。出勤前は涙が出た。会社で叱責されると、トイレに駆け込み、30分近く泣くこともあった。

 2019年2月、休職することを決めた。心療内科に行き、「持続性抑うつ障害」とも呼ばれる「気分変調症」の診断書をもらった。

 少し休んで体力が戻ったころ、思い切って転職を決意した。「この会社にいても同じことが起きる」という思いからだった。転職エージェントに登録し、「ホワイトな働き方の会社に行きたい」と希望を伝えた。転職先はすぐに見つかった。

医療系の人材紹介会社に転職

 2019年5月、医療機関向けに人材紹介を行う会社に転職した。2010年に設立されたメガベンチャー企業で、勤務地は東京だった。営業職に配属された。しかし、メンタル不調が続いており、体調は一進一退だった。会社と相談し、半年で事務職に異動させてもらうことになった。

 事務職として、請求書の作成や社員の給与管理などを行った。1年半がたったころ、人事部との面談で「総合職に戻ってみない?」と提案された。マーケティング職に移ることになったが、この仕事は真理さんに合わなかった。興味が持てなかったのだ。