嫌がる素振りを見せてもその男性は止めなかった。「怒らせたら何をされるか分からない」という恐怖もあり、はっきりと拒絶はできなかった。真理さんは場の雰囲気を壊さないように振る舞った。

 人事部の先輩女性に相談した。その人からは「毎年新入社員が被害にあっている。あの人は変なところがあるから、これから関わらないように」と言われた。セクハラ被害にあったのに、具体的に動いてくれるわけではなかった。「今後は気を付けて」という助言だけで終わった。

「お前、紐パン似合いそうだよね」

 これは入社から半年がたったころ、飲み会の場で、40代前半の男性上司から言われた言葉である。20歳以上年齢の離れた上司からの言葉に唖然とした。状況が呑み込めず、言葉が出なかった。「そんなことないですよ」と返すのが精いっぱいだった。男性からそのような言葉をかけられたことがなく、そういう目線で見られていたことにショックを受けた。

 もう一度、先輩の女性に相談した。しかし、返ってきたのは「あの人はそういう人だからね。昔からそうだから、あまり気にしないでいいよ」という言葉だった。

 セクハラを社内で通報しようとも考えたが、通報先は自身が所属する人事部。相談する先はなかった。人事部は労働組合に対する立場であり、労働組合に相談することもできない。そもそも、労働組合は弱く、人事部の言いなりになっていた。相談などもってのほかだった。

過酷だった時間外労働

 真理さんはひどいセクハラを受けていたが、会社を辞めようとは思わなかった。

「今考えると異常なのですが、当時は『自分が変なんだ。会社はこんなものだ』と思い込んでいて、適応しないといけないと思っていたんです」

 会社を辞める直接のきっかけになったのは、その過酷な勤務形態だった。