安くて旨いチェーンレストランとして名前が挙がる一つが「サイゼリヤ」ではないだろうか。300円で食べられる「ミラノ風ドリア」に100円ワイン、ほかにもわずか数百円のメニューがずらりと並び、ファミリーはもちろん“ちょい飲み”のビジネスパーソンにまで幅広く愛されている。なぜこれほどコスパの良い料理を提供し続けられるのか。
(東野 望:フリーライター)
急成長企業ならではの課題
サイゼリヤの秘密が記されているのが、『サイゼリヤ元社長が教える 年間客数2億人の経営術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)だ。著者の堀埜一成氏は、「味の素」出身でブラジル赴任や研究室長などを務めた後、2000年にサイゼリヤへ入社。2009年から13年間、社長を務めた。
前任社長はサイゼリヤの創業者で現会長の正垣泰彦氏。社長を引き継いだときはデリバティブの失敗が足を引っ張っていたものの、正垣氏の手腕で急成長を遂げており営業利益は黒字だった。しかし、急成長ゆえの課題に堀埜氏は気づく。
急成長で足元がグラグラになっていました。(中略)サイゼリヤが「奇跡の会社」であり続けるためのインフラ整備。これが私に課された課題だと思っていました。
これまでは、正垣氏が1人で多くのことを決めてきた。そのため、指示系統もオペレーションも、当時全国に800店舗ほどあったにもかかわらず十分に整備されていなかったのだ。そこから、堀埜氏はどう組織を変えていったのだろうか。
社員に「ズル」をさせない表彰制度
サイゼリヤの理念は、「人のため」「正しく」「仲良く」。お金や自分のためでなく人(客や従業員、取引先などサイゼリヤに関わるすべて)のためにする行動は正しくないといけない。ズルをせず、人のために正しく行動すれば「仲良く」なるというものだ。
大事なのは「人のための正しい行動」なのです。サイゼリヤの性善説は、ここに表されています。
じつはサイゼリヤにはノルマがない。そのためムダな競争がなく、「ズルをして自分の店を良く見せよう」といった発想につながりにくい。それは良い点だが、現場の気が緩んでしまいかねないと思った堀埜氏は、「社長賞」を設け、表彰することにする。それも、他人を出し抜くような「ズル」をさせない方法で。
審査基準は毎回変わるうえに、事前に一切告知をしない。表彰式で初めて受賞者とともに理由を発表するのだという。先に基準を発表して、その間だけ頑張るといった「ズル」をする人が現れないためだ。
皆がやらないようなことを率先してやっている人を見つけて、その人を表彰するようにすれば、あれこれ指示をするよりも皆が自主的に日々の業務を頑張るようになる。