7月3日、新紙幣が発行された。20年ぶりとなる刷新だが、キャッシュレスの動きが急速に広がっていることから「これが最後の新紙幣発行になるのではないか」との見方も出ている。
デジタル技術を使った決済が広がる中、今後の焦点は次のテーマは各国の中央銀行が研究を進める「CBDC」の行方だ。元日銀の神津多可思・日本証券アナリスト協会専務理事が解説する。(JBpress編集部)
(神津 多可思:日本証券アナリスト協会専務理事)
CBDCの持つ基本的性格
中央銀行デジタル通貨(central bank digital currency、CBDC)について、日本銀行は「現時点では発行する計画はない」としている。一方で、新しいデジタル技術を使い、金融機関の間の資金決済(ホールセール決済)や企業・個人の間での資金決済(リテール決済)をもっと便利にできないかという視点もある。中央銀行も技術進歩の最先端を理解しておく必要があるので、欧米の中央銀行もCBDCの研究・調査を熱心に行っている。
どういう状況になれば日本でもCBDCが発行されるのだろうか。そしてそれはどのような形になるのだろうか。コロナ禍を契機としたキャッシュレス決済の広がりを思えば、何かのきっかけでCBDCの発行へと大きく舵が切られる可能性も否定できない。
まずCBDCとは何か?
CBDCの持つ基本的性格については、2020年1月に国際決済銀行(BIS)および日本銀行を含む7つの先進国中央銀行が共同で出した「中央銀行デジタル通貨:基本的な原則と特性」というペーパーに整理されている。そこでは様々な側面から詳細な整理がなされているが、よく話題に上るのは次のような点であると思う。
- 中央銀行の負債であること
- ホールセールやリテールのいずれの決済においても誰でもが使えること
- そのやり取りを通じて決済は即時に終了すること
- その決済を通じて相手に渡ったCBDCについては、どのような場合でも前の所有者が請求権を持たないこと
要するに、現在の現金が持っている性格をそのままデジタル化するイメージだ。
金融機関の間のホールセール決済は、現在でも金融機関が中央銀行に持っている当座預金によって行われている。日本では、それは日本銀行が運営する日銀ネットを通じて処理されているので、既にデジタル化されていると言って良い。ただし、日本銀行当座預金は上記の整理からすればCBDCではない。一般の企業や個人はそれにアクセスできないからだ。
では企業や個人のリテール決済は何によって行われているだろうか。