ネイティブ相当の語学力を得るのは難しい

 早稲田大学法学部卒業後、三和銀行在職中に同行の派遣でカイロ・アメリカン大学(英語で学ぶことができるシステムとのこと)で上級アラビア語コースを修められたのち、中東研究科で修士論文を仕上げられ、ロンドンでのアラブ金融業務についておられる。

 つまり、会社のお金で留学させてもらい、大変なプレッシャーのもと、規定の期間で語学研修から大学院修了まで責任を全うされ、お金を扱う仕事で中東人相手にアラビア語を併用する商談の一線に立たれた。

 そういうシビアなプロが耳にして「いったいこれは何事か?」と耳を疑ったのが、小池百合子氏のアラビア語だった。

 もともと瀬古利彦選手のチームメイトとして早大競争部で箱根駅伝にも出走、4年次には20キロで道路北海道新記録も出された、フェアなスポーツマン。アスリートの地金を黒木さんはお持ちでした。

 そんな黒木さんは、公人であるはずの都知事が「カイロ大学首席卒業」を掲げながら、どう考えてもまともとは言い難い「アラビア語未満」を口にする小池百合子氏に、強い疑問を持たざるを得なかった。

 この状況、私は小池候補に近い立場で、よく分かる気がするのです。

 私は母が英語教師で、自宅でも(つましい家計を支えるべく)私が物心つく前から教室を開いていたので、私は英語はそれなりに使います。

 交渉事で相手から有利な条件を引き出すようなやり取りを心がけてはいます。でも、英語圏に連続3か月以上長く滞在して学位を取るなどの経験はありません。明らかに母語話者の足元にも及びません。

 事務の処理は普通にしますが、いまでも随時「字引き先生」の厄介になって、確認しながらでないと危なっかしくて、いい加減な英語は使えません。

 ドイツ語やフランス語も仕事の必要で使っておりますが、きちんと留学した人には明らかに比較にもならないくらい、私には劣った語学力しかありません。

 亡くなったフランスの指揮者・作曲家、P.ブーレーズも二言目には「自分の語学は最低最悪」を口癖のように言いながら、流暢なドイツ語や英語で実務をこなしていました。

 実際、我々楽隊はそれでも許されてしまう現場があった背景が、私の場合、よくありませんでした。

 先日亡くなった小沢征爾さんのベルリンフィル初登場、初回練習冒頭の挨拶として「グーテン・モルゲン(ドイツ語)エブリバディ(英語)レッツ(英語)ツーザーメン(ドイツ語)シルヴプレ(フランス語)」という各国語ちゃんぽん発言が、笑い種として伝えられています。

 しかし、こういう傾向になってしまうのは、私自身も経験があります。

 簡単な挨拶程度はフランス語でもできるし、音楽のリハーサルで必要な範囲は何とかなる。

 でも、ちょっと込み入った内容を話そうとすると、フランス語が口をついて出てこない。むしろ別の言語、英語やドイツ語が出てきてしまう。

 留学してきちんと現地語で学位取得などしていない人間は、どうしてもこういう傾向を拭い切れません。

 小池候補がめちゃくちゃなアラビア語になるのは、不十分な学修経験しかないものであれば誰でも陥る典型的なものであるし、それなりに経験を積んだ大人の年齢の人なら、こういうことは自ら恥じるものですから、およそ強弁などできたものではない。

 現役の国立大学教授職として、学生たちへの示しとしても、できることとできないことの是々非々は、しっかりつけることを強調しています。

 東京大学を筆頭に並みいる大学教授、名誉教授陣、ノーベル賞や文化勲章を受けられた先生がたが、国際会議などの場で、みなさん謙虚に、母語でない言語の不十分を、含羞をもって一礼お詫びされたりする。

 そういう当たり前の謙虚さが、見事に微塵もない。それが今回の小池候補の開き直りで観察される状況と思います。

 きちんとやったことがある人は、自分の足りない部分も正直に謙虚に認めます。それができない人は、生まれてこの方、リアルな業績が実は一つもない人間である場合が、少なくとの一部の業界においては、少なくありません。