KrFとi線に注力するキヤノン

 このようにしてみると、キヤノンの戦略が浮き彫りになる。キヤノンは、EUVやArFなどの先端には一切手を出さず、KrFとi線に注力する戦略をとっている。そして、この戦略は実に効果的である。

 というのは、半導体の製造においては、いくら最先端であったとしても、EUVだけで作れるわけではなく、ArF液浸、ArFドライ、KrF、i線を万遍なく使う。つまり、今後どれだけ半導体の微細化が進もうとも、KrFとi線は必ずビジネスが存在する。しかも、装置は成熟しているため、ほとんど開発費がかからない。そのため、KrFとi線に絞ったキヤノンの狙いは秀逸であると言える。

 一方、キヤノンに比べるとニコンの戦略は明確ではない。ArF液浸やArFドライでは、ニコンはASMLにまったくかなわない。そして、KrFとi線ではキヤノンに勝てないのである。つまり、ニコンは、先端装置ではASMLのおこぼれを、成熟装置ではキヤノンのおこぼれを拾っているように見える。

 冒頭で述べた通り、ニコンは1990年台に「装置の帝王」と呼ばれていた。それが今や、ASMLとキヤノンのおこぼれで何とか生き延びている状態である。まさに、栄枯盛衰、諸行無常を感じる。

 今後を展望すると、最先端露光装置については、ASMLがEUVの次世代機「High NA」の出荷を開始した。さらに、2030年頃には次の世代の「Hyper NA」を開発する。

 このように、莫大なR&D費用を投じて最先端を突き進むASMLに対して、キヤノンはひたすらKrFとi線に絞ったビジネスを行っていくと思われる。最先端を捨てたキヤノンの戦略は「クレバー」であるように筆者は感じる。