最も使われる千円札が減少している理由

【決済需要は膨らんでいるはずだが紙幣発行高減少】
 現局面では、紙幣発行高の減少が続いているものの、リーマンショック後のように明確に景気が悪化しているわけではない。実質GDPはこのところ振れが大きく、実質個人消費は弱めで推移しているものの、物価上昇の影響により、名目ベースではGDP、個人消費とも緩やかながら増加傾向にある。

 紙幣発行高の名目GDPや名目個人消費に対する比率をみると、コロナ禍後、特別給付金支給の影響でやや大きく上昇したものの、その後は低下傾向にある。

 経済活動が正常化するとともに、特別給付金支給分(あるいはその相当分)が消化された影響が大きいとみられるが、足元の比率はコロナ禍前からのトレンド線を下回っている。

 決済需要が膨らんでいるにもかかわらず、紙幣が使われなくなった影響も含まれているようだ。キャッシュレス決済が普及している影響、もしくはタンス預金が縮小している影響が考えられる。

 紙幣の発行枚数の内訳動向をみると、キャッシュレス決済普及、そしてタンス預金縮小の両方が、発行高の減少に影響していると思われる。


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【日常決済に頻用の千円札が減少傾向】
 まず、日常決済に頻用される千円札がこのところ減少傾向にある点が目を引く。

 千円札は、2010年代以降に概ね年率+1%台後半で安定的に増加してきたが、2023年にほぼ横ばい圏で推移し、2024年に減少傾向にある。前年同月比の推移をみると、足元では3月以降3カ月連続の減少だ。キャッシュレス決済普及の影響が大きいだろう。

 キャッシュレス決済普及は、紙幣よりも先に硬貨に影響が及んでいた。

 2000年代半ば以降、一円玉や五円玉、十円玉といった小額硬貨の発行枚数が減少基調へ転じた。2014年4月に消費税率が5%から8%へ引き上げられた際は、小額硬貨の決済需要が膨らむとの事前予想もあったが、実際には発行枚数は減少基調を辿った。電子マネーの普及が影響したとみられる。


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