職場の困った人を変えるにはどうすればいい?

──それ自体はとても恐ろしい出来事ですが、それが大きな成果につながったことを考えると、ストレスというのは、爆発的な瞬発力を出す要因になるのですね。

片田:そうです。怒りをいかにエネルギーにしていくかという点は、ものすごく大事なことです。幸せな人は欲がありません。

 欲望は、欠如があるからこそ生まれる。これはプラトンが言っていることです。欠如があるからこそハングリーになれるのです。

──職場を腐らせる人たちを変えるのは至難であると書かれています。なぜそんなに難しいのでしょうか。ストレートに相手に、問題に思う部分を指摘するのは、やめたほうがいいですか?

片田:それはやめたほうがいいですね。怒りや反感を買って、余計に問題が大きくなりますから。なぜ職場を腐らせる人たちを変えるのが至難かというと、本人に自覚がないからです。他人に迷惑をかけているという自覚がない場合がほとんどです。

 私は企業や金融機関などでメンタルヘルスの相談に乗っています。しばしばそうした職場に、皆が困っている問題のある人がいます。本当にいろいろな方がその人の問題を口にして、「先生、どうしたらいいですか?」と相談してきます。

 当然、みんなが困っているその当人とも面談をすることがあります。すると、ご本人は「仕事では何も問題ありません」「困っていることはありません」などとおっしゃる。実にあっけらかんとしていて、ぜんぜん自覚がありません。

「対人関係で頻繁にトラブルがあり悩んでいます」などと語れば話は別ですが、ご本人に自覚がないのでどうしようもありません。自覚がない人を変えるのはとても難しい。

──どうしたら、そういう人に気づかせることができますか?

片田:本当に困った人で、どうしても相手に気づかせる必要があるのであれば、職場が覚悟を決めなければなりません。私の外来に来られたかつての患者さんの場合、あまりにミスが多いため、ある時、上司から呼ばれたそうです。

 そうしたら、上司が数人と弁護士が待っていて、その方がこれまでやったミスがすべて記録されていたそうです。これだけミスが多く、注意したにもかかわらず、全く改善がみられない。給料に見合った仕事ができていないので、「退職するか、減給させてほしい」と言われたそうです。

 しかも、その時の様子は録音されていました。「そこまでされるのか」と本人は人間不信に陥り、翌日、動悸と吐き気で救急病院に搬送された。こうしたことがあった後に私のところに相談に来られました。

 話を聞くと、同情すべき点はあったにせよ、かなりミスが多かったのは事実だったようです。周囲の方が困るくらいのミスが散見されました。ですから、職場は覚悟を決めたのです。そのくらい覚悟を決めないと、なかなか本人は変わらないと思います。