家庭で育つという意味

──里親は増えているのでしょうか?

三輪:里親家庭の数はここ10年で少しずつ上昇してきていて、現在では1万4401世帯(2020年調べ)の里親登録があります。全国でも委託率を上げるための取り組みは活性化していて、福岡市では59.57%(2023年調べ)の子どもたちが里親家庭やファミリーホーム(※)で暮らしています。

 でも、全国で見ると委託率は23%程度に留まり、およそ2万5000人もの子どもたちは児童養護施設や乳児院で暮らしています。

※5〜6人を一度に預かることができる小規模住居型児童養育事業。

──施設で暮らすことと、里親家庭やファミリーホームで暮らすことの大きな違いはなんでしょうか?

三輪:いちばん違うのは、施設ではスタッフが子どもたちのお世話をしているということでしょうか。シフト制なので時間が来ればスタッフは入れ替わり、スタッフが一人ひとりの子どもにかかりきりになるのは難しい状況です。

──家庭なら、いわゆる「普通の暮らし」が経験できるということですね。

三輪:そうですね。たとえば我が家の場合ですが、一緒にごろごろする日もあるし、今日は疲れたねって言って外食する日や、夕飯をみんなで準備する日など、本当に普通の家庭と同じような暮らしをしています。

 休みの日には○○に遊びに行こうね、と決めていても、その日になってからみんなの気分が変わって、やっぱり違うところに行こう、ということもあります。

──どんなふうに過ごしていらっしゃいますか?

三輪:くうちゃんは自然が大好きなので、晴れている休日は大きな公園に行ったりします。キャンプ用のいすを持って行って、夫とくうちゃんが虫取りをしている間、私は木陰でのんびり眺めたり、一緒に歩いたり、みんなでおやつを食べたり……。

 最近はくうちゃんがスムージー作りにハマって、くだものやヨーグルトなどを独自に配合してスムージーを作ってくれていました。とてもおいしかったのでしばらく続いてくれると嬉しかったんですけど、1週間ぐらいでブームが過ぎてしまって。

──子どもにとって、家庭で育つことのよさは何でしょうか?

三輪:私はすべての子どもたちに、自分だけを特別に見てもらえる環境を経験してほしいと思っています。養育者と同じ空間で生活する環境で、育つ経験をしてもらいたい。

 特に乳幼児は人生の基盤となる大切な時期ですよね。安定したアタッチメント(子どもを養育している特定の人物、または人々と、子どもの情緒的な絆のこと)を築くことがとても重要です。養育者が子どもの欲求に敏感に対応することで、子どもは安心してその世界を楽しむことができます。

 もちろん、乳幼児以外であっても、たくさんいる子どものうちの一人としてではなく、常に注目を向けてもらえる、特別な一人として見てもらえることで、大人になってからの生きづらさを減らしていくことができるのではないかと思います。

 中には、同じ境遇の子どもたちと一緒に暮らせる、環境を変えることへの怖さがないという点で施設の方が気楽だと思う子どももいるでしょう。また、施設側も家庭で過ごすような生活ができるようにと、さまざまな工夫をしています。

 でも、国連の「子どもの権利条約が定める基本的人権」の中にも「家庭で育つ権利」という言葉が盛り込まれている通り、子どもは家庭で育つほうが、日常をより当たり前に過ごせるものです。

 里親たちはそんな子どもたちの心の成長を支えるため、日々「普通の暮らし」を守っているのです。子どもが保護されたニュースの先にはさまざまな人たちの温かさがあるということに、私たちはもっと関心を持つべきかもしれません。

三輪 清子(みわ・きよこ)
社会福祉士、保育士、博士(社会福祉学)。明治学院大学社会学部准教授。
里親(子)に関することを研究テーマとし、近年では、里親不調による措置変更に関する調査研究プロジェクトに参加、また里親と子ども、実親の関係性についての研究を行っている。近著に『ネットワークによるフォスタリング』(共著、2021年、明石書店)、『もしかして となりの親子は里親子!?』(理工図書)がある。

吉川 愛歩(よしかわ・あゆみ)
書籍編集者、ライター。
出版社を経て2003年に独立、主に料理と子どもの本を制作。片親家庭で育ち、自身もひとり親として高校生と小学生を育てている。『もしかして となりの親子は里親子!?』(理工図書)の外部編集者として制作に関わる。