プロジェクト・ゼンカイはさまざまな悩みを抱えている高校生年代の「第三の場」として機能している(写真:maroke/イメージマート)プロジェクト・ゼンカイはさまざまな悩みを抱えている高校生年代の「第三の場」として機能している(写真:maroke/イメージマート)

「Choose Your Life」を旗印に10代、20代向けのキャリア支援を展開しているハッシャダイソーシャル。設立当初は、代表理事を務める勝山恵一と三浦宗一郎が体一つで全国の学校や施設を回っていたが、最近では社会課題に関心を持つ同世代の仲間や教育現場の教職員、そして二人に影響を受けた10代、20代の若者がその輪に加わるなど、その活動は大きなうねりになりつつある。

 なぜ人々は二人の下に集まるのか。なぜ10代、20代の若者は彼らの言葉に耳を傾けるのか──。京都の不良と自動車工場の元工員、その仲間たちが巻き起こしている「挑戦」の記録(第7話)。

(篠原 匡:編集者・ジャーナリスト、蛙企画代表)

 全国の高校や施設を回っていた勝山と三浦は、高校生年代に直接語りかける活動に手応えを感じる日々を送っていた。

 するとある日、「ヤンキーインターン」を手がける株式会社ハッシャダイのお問い合わせ窓口に一通のメッセージが届いた。トヨタ自動車の人事部に異動してきたばかりの山口勇気が送ったものだ。

 国内営業から人事部に異動した山口の主な仕事は中途採用の拡大。ヤンキーインターンを通して中途採用の拡大が図れるかもしれない。そう考えた山口が連絡を取ろうとしたのだ。2020年1月のことである。

 トヨタがヤンキーインターンに反応したのは、トヨタ自身が変革の時期だったため。当時のトヨタは、従来の自動車メーカーからモビリティ・カンパニーに本格的に移行し始めた時期。Connected(コネクティッド)、Autonomous/Automated(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)という4つの技術革新(CASE)によってクルマの概念が変わる中、「クルマをつくる会社」から「モビリティ社会をつくる会社」に変わるべくアクセルを踏み始めていた。

 モビリティの会社に生まれ変わる以上、これまでのような新卒を中心とした人材採用だけでなく、さまざまなスキルと経験を持った多様な人材を採用していく必要がある。そんな方針の下、中途採用の間口を広げようと動き回る中で、ヤンキーインターンにたどり着いたのだ。

 その後、ヤンキーインターンを視察するためハッシャダイを訪れた山口は、偶然、三浦宗一郎に出会う。最終的にヤンキーインターンの卒業生をトヨタが採用するというところまでは至らなかったが、その時に三浦が高岡工場で働いていたトヨタOBだと知り意気投合。三浦が進めていた講演活動の文脈で「何か一緒にやろう」と話が転がり始めた。

 トヨタとの邂逅は、三浦にとって願ってもない機会だった。ソーシャルとしての活動を本格化させようとしていた三浦にとって、トヨタと一緒にプロジェクトができれば大きな実績になる。同時に、自分を育ててくれたトヨタの恩に報いる格好の機会だ。

 そして、トヨタに最高の提案をしようと知恵を絞った三浦は「じぶんの学校」というプログラムを思いつく。

「じぶんの学校」とは、愛知県豊田市内の高校生を集め、内省と社会人メンターとの対話を通して行動変容を促す3カ月のプログラム。は大人や仕事に触れる機会が少ない高校生年代に、さまざまな生き方をしている社会人に見せることで、自分自身と自分の将来を考える一つのきっかけにしてもらおうと考えたのだ。

 こうして始めた「じぶんの学校」は参加者の評価も高く、トヨタ側も一定の手応えを得た。そこで、山口は上司とともに経営陣を説得。予算を確保し、より規模を拡大した3年間のプロジェクトとして再始動することにした。それが、プロジェクト・ゼンカイである。

トヨタをやめた三浦宗一郎だが、ひょんなことでトヨタとプロジェクトを進めることになった。写真は三浦が働いていた高岡工場(写真:共同通信社)トヨタをやめた三浦宗一郎だが、ひょんなことでトヨタとプロジェクトを進めることになった。写真は三浦が働いていた高岡工場(写真:共同通信社)