3.ウクライナの弾道ミサイルを撃墜できない

 図2のように弾道ミサイルや巡航ミサイルを撃ち落とすために配備されているロシアの防空兵器は、その兵器自体に向かって飛翔してきているミサイルを撃ち落とすことができず、本来の役割とは逆に破壊されている。

 S-400やS-300は、射程60~30キロの範囲内で、弾道ミサイルを撃墜できると公表されてきた。

 各種報道によると、今年5月22日に発射された10発のATACMSは1発も撃墜できなかった。

 ウクライナ軍がロシアの短距離弾道ミサイルの攻撃を受けた場合、パトリオットのミサイルさえあれば、9割以上の撃墜率である。それが、ロシアの場合は1発も撃墜できず、すべて撃ち漏らしたのである。

 ロシアは、弾道ミサイル撃墜について、「S-300はパトリオットミサイルと同等の能力を持ち、S-400はパトリオットミサイルの2倍の射程を持つ」と公表していた。

 だが、実際の戦争では、ロシアの防空ミサイルは米国製の短距離弾道ミサイルを1発も撃墜できないで、逆に撃ち漏らしたミサイルによって破壊されているのだ。

4.ロシアの防空兵器破壊映像の分析

 ロシアの防空ミサイルが、米国製の弾道ミサイルを撃墜できなかったのは、ロシアのミサイルが射撃態勢ではなかった可能性もありうる。

 そう思って破壊された写真について、Oryxの視覚情報を分析した。これにより、ロシア防空部隊の実情が分かった。

ロシア防空部隊は広大な牧草地のような発見されやすい所に展開

 S-400は、その大きさから目立ち発見されやすいものである。戦線から遠いとはいえ、林の中に隠れていなければ敵の目にすぐに発見される。

 破壊時の映像を見ると、牧草地のような広大な土地に展開しているのである。空中からも、地上からも丸見えである。

 すぐに発見されてしまうことは、軍人であれば分かっているはず。だが、ロシア軍防空部隊は防空兵器を樹木の中に隠そうとはしていなかった。

 実戦を意識した訓練・演習をしていなかったのだろう。ミサイル攻撃を受けるのは当然のことである。

防空兵器展開のためのトラックの轍の跡が丸見え

 レーダーや発射機を搭載した大型トラックが牧草地などで動くと、その轍の跡がはっきりと残る。

 偵察衛星の写真でその跡を追いかけると、兵器が存在している所が容易に分かる。

 また、レーダーが作動していると、その放射された電子情報を収集する衛星がレーダーの電子情報を発見し、位置を特定することができる。

 敵を意識した訓練をしていれば、車の轍をなるべく少なくする、あるいは消すという方法を実践しなければならない。

 ロシアの防空部隊は、宇宙や地上から発見されることを意識した訓練を実施してこなかったことが分かる。

 防空兵器が展開している位置は、戦線から遠く離れているので、ウクライナ軍のミサイルは届かないという安心感・油断があったのであろう。

ウクライナ軍は、防空兵器に対するミサイル攻撃を監視

 Oryxの情報を見ると、ロシア防空兵器にミサイルが衝突している状況や破壊された状況が昼も夜も撮影されている。

 前線から約200キロ以上離れているにもかかわらず、発見し、正確に攻撃、命中している状況が映像で写されている。

 ウクライナ軍は、ミサイル攻撃とドローンによる監視を同時に行っていたのである。

ウクライナ軍は米国の衛星や電子偵察機の情報を活用

 ウクライナ軍は、ロシア防空兵器の情報について、パルチザン、電子偵察機、映像偵察衛星やエリント衛星の情報を総合して解明したのだろう。

 広く展開していた防空兵器を攻撃し、ミサイルを命中させたのは、偵察衛星や電子偵察機の情報が使用された可能性が高い。

S-400のレーダーや発射機が作動中にもかかわらず攻撃され破壊された

 防空部隊が攻撃を受けるのは、車両移動中に攻撃を受けるか、あるいはレーダーやミサイルが設置されて、作動している時に攻撃されるかのどちらかである。

 防空システムが車両の移動中に、道路上で攻撃を受けたのであれば、破壊されてもやむを得ないことである。

 だが、写真をよく見ると、レーダー本体を支える脚が設置されていた。

 つまり、これは防空部隊の各器材はその地に展開し、陣地占領し、電源が入り作動していたことを表している。

 破壊されたレーダーや発射機は、作動中であったにもかかわらず破壊されたということだ。

ATACMSの命中精度が良い

 ウクライナ軍のATACMSの命中精度が悪ければ、防空兵器だけではなく、周囲の草も広範囲にわたって焼け焦げていただろう。

 だが、防空兵器だけが破壊され、焼けただれていることから、ATACMSの精度の良さが分かる。