重大な環境破壊を引き起こすリスク

 今年4月、スウェーデンのゴットランド島では、北欧およびバルト三国8カ国の外相が「影の船団」対策を協議。これに関連し、スウェーデンのビルストローム外相は英ガーディアン紙の取材に対して、こうした船舶が、衝突や油漏れなどによる大きな問題を生じた場合の周辺国への影響に懸念を示した。

 原油取引が戦費の収入源になるだけでも「十分悪質」である上に「このままではバルト海は危険な海域となり、これらの船が重大な環境破壊を引き起こす可能性があるという事実を、ロシアが明らかにまったく気にしていない」と、名指しでロシアの無責任ぶりを批判した。

 その上、スウェーデンにはこうした影の船団に関する別の懸念も生じている。

 今年4月、スウェーデンの公共放送SVTは、「影の船団」には軍事目的の側面もあると伝えている。スウェーデン海軍の話として、こうした影の船団の船舶が、事故による緊急寄港地を探すという名目で、スウェーデンの港に入港してくる可能性があるという。

 海軍はまた、影の船団が通信傍受を行っている可能性も示唆した。こうした船舶に、商船には必要のない通信機器が搭載されているという。つまり、ロシアが影の船団を利用し、スウェーデン領土のすぐ側でスパイ活動を行なっているのではないかという疑惑だ。

 海軍長官は取材に「対ロシア制裁によって現在起こっていることは、安全保障と環境、両方の悲劇になる可能性がある」と述べている。

 EUのオサリバン制裁特使は今年3月、米Voxの取材に対し、影の船団による「生態学的な災害」が、いつ起きてもおかしくないと話している。海上の大惨事や「スパイ活動」を回避、阻止するために、「影の船団」のせん滅は可能なのだろうか。

楠 佳那子(くすのき・かなこ)
フリー・テレビディレクター。東京出身、旧西ベルリン育ち。いまだに東西国境検問所「チェックポイント・チャーリー」での車両検査の記憶が残る。国際基督教大学在学中より米CNN東京支局でのインターンを経て、テレビ制作の現場に携わる。国際映像通信社・英WTN、米ABCニュース東京支局員、英国放送協会・BBC東京支局プロデューサーなどを経て、英シェフィールド大学・大学院新聞ジャーナリズム学科修了後の2006年からテレビ東京・ロンドン支局ディレクター兼レポーターとして、主に「ワールドビジネスサテライト」の企画を欧州地域などで担当。2013年からフリーに。