(歴史ライター:西股 総生)
「藪ばかり問題」を克服する
28mmや24mmといった広角を初めて使う人は、広い範囲が写せることに喜んで、パシャパシャとシャッターを切る。けれども、広角は画角が広くなればなるほど(=焦点距離が短くなればなるほど)、遠近感が強調されて写る、という原理をわきまえていないと、ぼーっとだだっ広いだけのカットを量産するハメになる。
また、土の城の場合、どうもうまく撮れないという人のお悩みポイント第一位は、「藪ばかり写って肝心の空堀や土塁がうまく写らない」ことだ。
ズバリ指摘しよう。藪ばかり写る原因は、「広角は遠近感が強調される」という原理を体得していないことにある。
たいがいの土の城では、草木越しに堀や土塁を撮ることが多い。目の前の空堀は大きいし、引きがない状態でカメラを構えることになれば当然、ズームは広角端で撮ることになる。となれば、手前にある草木は、肉眼で視認しているより大きく、反対に、画面奥になる空堀や土塁は、肉眼で視認しているより小さく写ることになる。この状態でシャッターを切れば、「藪ばかり写っている」になるのは、理の当然なのだ。
この「藪ばかり問題」を克服するには、遠近感が強調される広角撮影のカメラワークを、身体に覚え込ませるしかない。一番いいのは、よく整備された(藪の少ない)城へ行き、ズームを広角端に固定した状態で、いろいろな場所でアングルを変えながら一日中、土塁や空堀を撮ってみることだ。そうすれば、28mmなり24mmなりで、肉眼の視覚とどのくらい遠近感が違うのかが、体感的に理解できるようになる。
そして、広角特有の遠近感を味方につけるポイントは、たった一つ。「一歩前へ」だ(男子トイレの張り紙みたいで恐縮だが)。
土塁なり空堀なりといった被写体を前にして、「うまく切り撮れるポジションはここだ!」と思って立ち、ファインダーを覗いた場所から、さらにもう一歩前へ踏み出してみよう。踏み出したところで、もう一度ファインダーを覗いてみれば、たった一歩、わずか数十センチ踏み出すことの効果が実感できるはずだ。
広角レンズは遠近感が強く出るゆえに、カメラポジションを数十センチ変えるだけで、写る景色ががらっと変わる。ということは、左右にも数十センチ動くだけで、写る景色ががらっと変わる。これこそ、「藪ばかり問題」克服の決め手なのである。
この原理が体得できたら、今度は草木の茂った城へ行って実戦訓練をしてみよう。「わー、すごい、大っきな空堀だあ」と感動して、そのままパシャリではなく、藪が少しでも薄い場所を冷静に探そう。見つけたら、微調整に入る。ほーら、前後左右に一歩動くだけで、いや、同じ立ち位置でもたった数センチ、カメラを動かすだけで、藪の写り込み方が全然違うでしょう?
前後左右にちょっと動くだけで写る景色ががらっと変わるのなら、上下もまたしかり。広角では、しゃがんで少しローアングルにしたり、立ち位置を変えて少しハイアングルにするだけで、写る景色が全然変わる。逆にいうなら、はっきりした狙いをもたずにローアングルにしても、写したい被写体は遠くへ去り、無駄に広い空ばかり写り込んでしまう。
なお、広角で土の城を撮る場合は、少し絞り込んで被写界深度を深めに取った方が無難だ。24mmか28mmなら、f11まで絞ればおおむね被写界深度が確保できる。
また、被写界深度は画面の手前側に浅く、奥側に深くなることも覚えておこう。画面の奥行き手前から1/3くらいの所にある立木などにピントを合わせると、全体にシャープな画面に仕上がる。画面中央の土塁や空堀はレンズから遠いので、そこにピントを合わせると、手前側が被写界深度から外れてしまう。
以上、広角レンズで土の城を撮る基本をザックリお伝えした。これらを踏まえて、各自で実践しながら、自分なりのノウハウを身につけてみてはいかがだろうか。