杉山城(埼玉県)の主郭

(歴史ライター:西股 総生)

●土の城を撮るなら広角レンズで(前編)

「藪ばかり問題」を克服する

 28mmや24mmといった広角を初めて使う人は、広い範囲が写せることに喜んで、パシャパシャとシャッターを切る。けれども、広角は画角が広くなればなるほど(=焦点距離が短くなればなるほど)、遠近感が強調されて写る、という原理をわきまえていないと、ぼーっとだだっ広いだけのカットを量産するハメになる。

増尾城(千葉県)の二ノ曲輪。曲輪の広がりを24mm相当で撮ってみたが、何とも締まりがない。ただの原っぱにしか見えない

 また、土の城の場合、どうもうまく撮れないという人のお悩みポイント第一位は、「藪ばかり写って肝心の空堀や土塁がうまく写らない」ことだ。

 ズバリ指摘しよう。藪ばかり写る原因は、「広角は遠近感が強調される」という原理を体得していないことにある。

同じ曲輪で撮影位置を変えてみた。背後に土塁と説明板があるので、だいぶ城っぽく見える

 たいがいの土の城では、草木越しに堀や土塁を撮ることが多い。目の前の空堀は大きいし、引きがない状態でカメラを構えることになれば当然、ズームは広角端で撮ることになる。となれば、手前にある草木は、肉眼で視認しているより大きく、反対に、画面奥になる空堀や土塁は、肉眼で視認しているより小さく写ることになる。この状態でシャッターを切れば、「藪ばかり写っている」になるのは、理の当然なのだ。 

多摩地方の某城。空堀を撮ったはずだが藪しか写っていない。土の城を歩いている皆さん、こんな写真を量産していませんか?

 この「藪ばかり問題」を克服するには、遠近感が強調される広角撮影のカメラワークを、身体に覚え込ませるしかない。一番いいのは、よく整備された(藪の少ない)城へ行き、ズームを広角端に固定した状態で、いろいろな場所でアングルを変えながら一日中、土塁や空堀を撮ってみることだ。そうすれば、28mmなり24mmなりで、肉眼の視覚とどのくらい遠近感が違うのかが、体感的に理解できるようになる。

山中城(静岡県)岱崎出丸の土塁を28mm相当で撮る。広角レンズの特性を活かして曲輪の広がりと土塁の奥行き感を出してみた

 そして、広角特有の遠近感を味方につけるポイントは、たった一つ。「一歩前へ」だ(男子トイレの張り紙みたいで恐縮だが)。

 土塁なり空堀なりといった被写体を前にして、「うまく切り撮れるポジションはここだ!」と思って立ち、ファインダーを覗いた場所から、さらにもう一歩前へ踏み出してみよう。踏み出したところで、もう一度ファインダーを覗いてみれば、たった一歩、わずか数十センチ踏み出すことの効果が実感できるはずだ。

前の写真と同じ場所から何歩か踏み込んで撮ってみる。少し動くだけで、ずいぶん印象の違う写真になることがわかる

 広角レンズは遠近感が強く出るゆえに、カメラポジションを数十センチ変えるだけで、写る景色ががらっと変わる。ということは、左右にも数十センチ動くだけで、写る景色ががらっと変わる。これこそ、「藪ばかり問題」克服の決め手なのである。

 この原理が体得できたら、今度は草木の茂った城へ行って実戦訓練をしてみよう。「わー、すごい、大っきな空堀だあ」と感動して、そのままパシャリではなく、藪が少しでも薄い場所を冷静に探そう。見つけたら、微調整に入る。ほーら、前後左右に一歩動くだけで、いや、同じ立ち位置でもたった数センチ、カメラを動かすだけで、藪の写り込み方が全然違うでしょう?

中城(埼玉県)の空堀を24mm相当で撮影。空堀ということはわかるが画面が藪っぽい。土の城の撮影では草木に煩わされるのが常ではあるが…
ほんの一歩、右に動くだけでこの通り。邪魔だった手前の草をかわすことができた

 前後左右にちょっと動くだけで写る景色ががらっと変わるのなら、上下もまたしかり。広角では、しゃがんで少しローアングルにしたり、立ち位置を変えて少しハイアングルにするだけで、写る景色が全然変わる。逆にいうなら、はっきりした狙いをもたずにローアングルにしても、写したい被写体は遠くへ去り、無駄に広い空ばかり写り込んでしまう。

 なお、広角で土の城を撮る場合は、少し絞り込んで被写界深度を深めに取った方が無難だ。24mmか28mmなら、f11まで絞ればおおむね被写界深度が確保できる。

高天神城(静岡県)の空堀。あえてハイアングルから撮ることで、画面に奥行き感が出た。横堀のラインが続く感じがわかるでしょう?

 また、被写界深度は画面の手前側に浅く、奥側に深くなることも覚えておこう。画面の奥行き手前から1/3くらいの所にある立木などにピントを合わせると、全体にシャープな画面に仕上がる。画面中央の土塁や空堀はレンズから遠いので、そこにピントを合わせると、手前側が被写界深度から外れてしまう。

 以上、広角レンズで土の城を撮る基本をザックリお伝えした。これらを踏まえて、各自で実践しながら、自分なりのノウハウを身につけてみてはいかがだろうか。