伏線もありました。5月中旬、自民党都連で次期役員を決める会議が持たれましたが、そこで多額の政治資金の報告書不記載に関して党本部から処分を受けていた衆議院議員の萩生田光一氏が会長に再任されました。

 筋から言えば萩生田氏は退任すべきで、他の人が会長になってしかるべきだったと思いますが、小池氏と太いパイプを持つ萩生田氏をあえて会長にし、党として小池氏に乗っかっていこうという腹づもりなのでしょう。萩生田氏の都連会長再任は、小池氏に対して「あなたの都知事3選を応援しますよ、対立候補を立てたりしませんよ」というサインだったと見て間違いありません。この構図に、都民は少々シラケているようにも見えます。

 他の候補者ということでは、つい先日まで安芸高田市長を務めていた石丸伸二さんも早々に立候補を表明し注目を集めましたが、本音での主張の根幹は「東京一極集中を是正する」というもの。言うなれば、東京にある機能、人、カネを地方に移そうということですから、都民にはちょっとウケにくい主張です。

 そういう点から見ると、石丸さんは今回の選挙で本気で勝ちを狙いに行っているのではなく、その後の展開――例えば広島県知事選への出馬――への布石にしているように感じます。その空気感も都知事選がワクワクしない要因になっているように思うのです。

攻撃ばかりではなく包摂を

 これまでのところ、小池さん、蓮舫さんのPR合戦になっているということに触れましたが、小池さんはキャッチーなキーワードを駆使し、ある意味、現実離れしたような高めの目標を公約に掲げ、有権者の歓心を買ってきました。蓮舫さんは、ズバ抜けた攻撃性を発揮し、時の権力者を舌鋒鋭く批判してきた。それによって留飲を下げた有権者も多かったはずです。

 一方で2人とも、その言説が先鋭的過ぎて、世間から飽きられている・敬遠されているところも無きにしもあらず、と言えます。近年は、メディアやネットの発達で、橋下徹さんや堀江貴文さんのように、攻撃を得意とする人が世の中の支持を集める傾向が強まっているように思います。そして政界にもそのような方がどんどん増えているように感じます。

 しかし、それは本当に国民が望んでいることなのでしょうか。とくに女性政治家の強みは、人の痛みを知り、人の意見をよく聞き、そしてなるべくみんなが納得する形でまとめ上げていく「包摂型」のリーダーシップを持っていることだと思います。

 歴史的に見ても、女性の社会進出は、看護師や学校の先生などを中心に進み、つまりは、地位や報酬を提示する形でのディールをベースとしたリーダーシップ(その真逆がトランプなど)ではなく、あるべき組織像・社会像の提示など夢のある形でのリーダーシップでした。生徒や患者をリードする上で、報酬を提示するわけにも行きません。今は、まさに女性が得意とする包摂型、夢の提示など、そういうリーダーを世の中は求め始めているのではないでしょうか。

 6月2日に、港区長選挙で清家愛さんが当選しました。弊社も政策づくりをサポートさせていただききましたが、これで足立区・近藤弥生さん、杉並区・岸本聡子さん、品川区・森澤恭子さん、豊島区・高際みゆきさん、北区・山田加奈子さん(山田さんの選挙でも政策作りを弊社がサポートしました)、江東区・大久保朋果さんに続いて、東京23区で7人目の女性区長となります。まだまだ割合としては少ないですが、女性区長の誕生が相次いでいるということは、包摂型のリーダーシップに期待を寄せている有権者が多いということではないでしょうか。

 攻撃型のリーダーが増え、世の中のあちらこちらで分断が起きている今だからこそ、女性らしい包摂型のリーダーが求められているように私は感じています。小池さん、蓮舫さんは、これまでどちらかと言えば「攻撃」の面が目立っていたように思います。小池さんの「排除します」発言は、同氏が主導した希望の党の勢いを削いだことが記憶に残っていますが、攻撃性はいずれ飽きられます。攻撃性を前面に打ち出して2人の女性候補が対決するという構図になるのはちょっと残念です。温かく包み込むような包摂型のリーダーシップを感じさせてくれた方が、有権者の共感をより多く集められるのではないでしょうか。