異形の「ディーゼル式弾道ミサイル潜水艦」の存在感

 海軍も弱小・老朽化が目立つ。それでも「北朝鮮の軍艦隻数は約790隻(満載排水量総数10万トン)で、韓国は同約230隻(29万トン)」とのデータを示し、中には艦艇の隻数だけを比べて北朝鮮の方が優位と断定するメディアすら存在する。

 だが、どれだけ艦艇数が多くても、旧式、小型、低性能では意味がない。事実、北朝鮮は韓国と比べて隻数は3倍以上だが、満載排水量の合計は逆に約3分の1で、北朝鮮海軍は中小艦艇で占められていることが見て取れる。これらは沿岸や近海での活動が主で、満載排水量500トン以上の大型水上戦闘艦(コルベット、フリゲート、駆逐艦、巡洋艦など)の隻数は7隻に過ぎず、外洋での活動は得意ではない。

 しかも老朽化がひどい。1950年代に誕生した旧ソ連製駆逐艦などは序の口で、第2次大戦勃発以前の1930年代にデビューした旧ソ連製コルベットがいまだ現役だ。

 それでも、2010年に国内建造された新鋭の「鴨緑(アムロク)」級コルベット2隻は、ある程度のステルス性能を有する洗練された軍艦で、核弾頭搭載の巡航ミサイルも運用可能と推測される。

 そんな弱小な海軍の中でも潜水艦は注目で、「弾道ミサイル潜水艦」と多数の「小型潜水艇」を保有する。

 通常型(ディーゼル・エンジン推進)潜水艦は、北朝鮮の21隻に対し、韓国が20隻と数ではほぼ互角だが、北朝鮮の潜水艦は1950年代に設計の旧ソ連製「ロメオ」級をベースにしたものが大半で、しかも潜水艦にとって命の静音性(静粛性)は著しく劣る。「あまりの騒音のひどさから『まるで海中でドラを鳴らしながら潜航しているようだ』とも揶揄されるほど」と、軍事評論家は話す。

 対する韓国は、世界的に定評のある独製「209/214」型のライセンス国産で、全て1990年代以降の建造である。

 ただし北朝鮮は「ロメオ」級を改造し、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)1発を収納した弾道ミサイル潜水艦「新浦(シンポ)-B」型を数年前に建造し、周囲をざわつかせた。

 深海にひそむ潜水艦は発見・捕捉が難しく、仮に核戦争となって相手の核攻撃で自国が壊滅したとしても、核ミサイル搭載の潜水艦が健在なら、「一矢報いる」とばかりに報復手段に訴えることができる。軍事専門用語で言う「生残性の高さ」で、この手段があれば敵対するアメリカも核の報復を恐れ、北朝鮮への攻撃を躊躇せざるを得ない。これが究極の「抑止力」である。

 2023年には「新浦-B」をさらに進化させた「金君玉(キム・クンオク)英雄」型を開発。推測ではSLBM10発(巡航ミサイルとの説も)を備えるという。

 同種の潜水艦は米露中英仏、インドも保有するが、いずれも原子力推進の弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN)で、数カ月潜航可能という抜群の秘匿性が売りである。しかし、「新浦-B」や「金君玉(キム・クンオク)英雄」型は通常型で、潜航時は充電したバッテリー電源が頼りなので、連続潜航日数は最大でも1週間もてば上出来だ。このため、軍事専門家の多くは、近い将来、SSBNを開発するための研究用と見ている。

北朝鮮初の戦術核攻撃型潜水艦「金君玉英雄」型北朝鮮初の戦術核攻撃型潜水艦「金君玉英雄」型(写真:KCNA/UPI/アフロ)

「小型潜水艇」は水中排水量100~300トン程度で、特殊部隊十数人を闇夜に乗じて韓国に潜入させるために使用されるものと見られる。現在50隻ほど保有するが、この種の艦艇をこれだけ備える国は他にない。