続々とプロ野球選手を送り出す指導者はどこが違うのか(写真:David Lee/Shutterstock.com)

ドラフト指名を受けてプロへ行く——。こんな夢を持つ高校球児は少なくないが、多くは夢のままに終わるのが現実だ。ところが、9年間でじつに8人もの教え子をプロ野球に送り込んだ人物がいる。大分商業高校で長年野球部を指導し、現在は佐伯鶴城高校に籍を置く渡邉正雄氏だ。『プロを輩出し続ける異能の指揮官 渡邉正雄』(加来慶祐著、竹書房)は、甲子園大会やWBC日本代表など、プロ・アマ問わず数々の野球人を取材してきたスポーツライターの加来慶祐氏が、異能の指揮官・渡邉監督の指導法に迫った一冊である。

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(東野 望:フリーライター)

「宇宙人」と呼ばれる監督

 渡邉監督がプロへ送り出した選手は、2014年に福岡ソフトバンクホークスからドラフト4位指名を受けた笠谷俊介選手を始め、2022年の埼玉西武ライオンズ2位指名・古川雄大選手ら8人に上る。

 その中には、プロ1年目で新人王に輝き、侍ジャパンで東京五輪の金メダリストとなった森下暢仁選手(広島)、源田壮亮選手(西武)もいる。

東京五輪の決勝戦でもマウンドに立った森下選手(写真:共同通信社)

 渡邉監督が指導してきた大分商業、佐伯鶴城(さいきかくじょう)はともに公立高校。野球で超一流の私立高校のように全国から有望な選手をかき集めているわけではない。にもかかわらず、これほどの実績をもつ渡邉監督とは、どのような人物なのだろうか。それを端的に表したのが、冒頭のこの一文だろう。

まわりの人間からは「宇宙人」と呼ばれ、その肩書を本人も勲章を得たかのように嬉々として受け入れているのが面白い

 同書では、自他ともに認める「宇宙人」渡邉監督の特殊な指導法を数多く紹介している。

“BIG BOSS”との共通点とは?

 野球界で「宇宙人」といえば、現在、北海道日本ハムファイターズで監督を務める新庄剛志氏を思い浮かべる人も多いだろう。渡邉監督も、自身と新庄監督との間にいくつかの共通点を見出しているようだ。本書の中で次のように語っている。

まず“常識にはとらわれない”ということでしょうね。私もどちらかと言えば“新庄さん側”の人間。“こうすれば面白いだろうな”ということは、常に考えています。要は、考えていることを実践するか、しないかだけの違いです

 大分商業に赴任した当初、渡邉監督は「軟式出身の監督に、一体どれだけのことができるのか」と白い目を向けられていたという。そんな中、エース投手を1番打者に起用するという策で、県の春大会で優勝を掴む。

 しかしこれは偶然の産物ではない。

 練習試合でエース投手が残した成績を見て、打者としての才能を見抜いていた監督の名采配の結果なのである。軟式野球出身ゆえに周囲から色眼鏡で見られ、さらに「エース投手が1番打者なんてありえない」との大ブーイングの嵐が巻き起こった。そんなものを吹き飛ばす結果を残せたのは、監督の“常識にとらわれない”発想力と実践力の賜物だ。