投獄されるたびに語学をマスターした(大杉栄)
国は一切の力を持つべきではなく、何にも縛られない個人の自由こそが最も尊い──。
そんな考えのことを「無政府主義(アナ―キニズム)」といいます。社会を少しでも良くしたいという社会運動家であり、かつ、無政府主義者(アナーキスト)として知られるのが、大正時代に活躍した思想家の大杉栄です。
政府に対して何かと抵抗運動を行った大杉は、何度となく刑務所に入れられてしまいます。電車の賃上げに抵抗して、捕まったことも……。
そんな大杉が逮捕されるたびに、心がけていたことがあります。それは「一犯一語」(いっぱんいちご)。つまり、罪を犯して1回投獄されるたびに、何か外国語を一つ、マスターしようと考えていたのです。
刑務所では、午前中を語学の勉強にあてた大杉は、イタリア語、ドイツ語、スペイン語などさまざまな語学を学習。なかでも夢中になったのが「エスペラント語」です。エスペラント語は国際共通語として考案されたものですが、大杉はエスペラント語学校まで造っています。
気になるのが、大杉の勉強法ですが、基礎をある程度固めてから、読書の実践を行うようにしていたようです。『獄中記』でこう説明しています。
〈今までの経験によると、ほぼ三カ月目に初歩を終えて、六カ月目には字引なしでいい加減本が読める。一語一年ずつとしてもこれだけはやられよう〉
幼少期から吃音に悩まされたことから、「俺は十カ国語で吃りたい」とも言ってのけたという大杉。これでは捕まえたほうも、何のために刑務所に入れたのかわかりませんが、どこでもやろうと思えばできるのが、勉強のすごいところ。それでいて、集中して取り組めば、時間を忘れて没頭することができ、自身を成長させてくれる。
大杉の刑務所での過ごし方は、勉強というものが、いつ何時でも、私たちを知らない世界に連れて行ってくれるということを教えてくれているようです。
【こぼれ話】
幼少期は西郷隆盛に憧れていた大杉。お父さんと同じ軍人になるため、名古屋陸軍地方幼年学校に入学します。しかし、同級生とケンカになって、ナイフで刺されるという騒ぎを起こして、退学処分を受けることに……。
周囲から見放された大杉は、外国語学校仏語科に入学することになります。そこで大杉は自分の語学への才能に気づいたというのですから、人生はわからないもの。そんな大杉の語学を学ぶセンスは、刑務所で大いに発揮されることになったのでした。
大杉はそんな自分のことを「監獄でできあがった人間だ」とまで言っています。
【名言】
「なんでも変わらないものはないものだ」