また別の証言によれば、2020年ごろ、范氏の家族が都内で警察の職務質問を受け、その際の所持品の特殊なボールペンが凶器にあたるとして軽犯罪法違反の容疑をかけられたことがあった。范氏はこの一件に対する強い憤りから、法律の専門家として日本の警察の言動を問題視していたという。

一連の事件に透けて見える権力闘争

 中国では2014年に「反スパイ法」が制定され、23年にはこれを改定し、「スパイ」としての摘発対象拡大に乗り出している。また国家機密のあつかいを定めた「国家秘密保護法」についても中国共産党による指導と関連部門の権限を強化する形で今年2月に改定しており、5月1日から施行予定だ。

 范氏は連絡が途絶える前、周囲に対し、当局から「同行を求められ、尋問を受けた」などと話していたとされる。日本在住の研究者が重点的な摘発対象とされている可能性もある。

 一方、今年3月に本誌指摘で“失踪”状態が表面化した神戸学院大の胡氏は、SNSでの過激な発言で“戦狼外交官”として知られる中国駐大阪総領事館の薛剣総領事(大使級)と同じ江蘇省出身で、10人ほどいる「総領事顧問」のひとりでもあった。

中国駐大阪総領事の薛剣氏(総領事館HPより)