東京五輪の競技施設も、小池都知事の無意味なパフォーマンスの犠牲になった。組織委員会の森会長と都知事の私とで、コスト削減のために、競技施設の徹底的見直しを行った後なのに、自分の存在理由を有権者に見せつけるためだけに、たとえばボート会場の見直しを提案したのである。彼女は宮城県まで出張したが、我々は既に調査済みであり、IOCの規格に適合しないことが分かっていた。何度行こうと宮城移転が不可能なことは当然であり、糠喜びさせられた宮城県民が馬鹿を見たのである。

いい加減な防災対策で都民の安全をどう守るつもりか

 極めつけは、防災対策のいい加減さである。都知事の私は、2015年9月に『東京防災』という本を作成し、全世帯に無料配布したが、これは今でも参考にされ、高く評価されている。その評価を超えたいと思ったのか、この女性版と称して『東京くらし防災』という冊子を、2018年2月に作っている。初版100万部で、公的施設や店舗などに9000カ所に置いてあるというが、この本など見たことのない都民が殆どであり、全く利用されていない。税金の無駄使いの典型である。これも、小池都知事の意味の無い人気取りパフォーマンスである。

 さらに、江東、江戸川、葛飾、足立、墨田の「江東5区」は、荒川と江戸川という二つの大河川の流域にあり、両者が同時に氾濫した場合、最悪のケースで9割以上、つまり250万人の住む地域が水没し、約100万人が住む江戸川区西部と江東区東部などでは2週間以上浸水が続く。

 広域避難の場合、一斉に避難すると橋や駅に避難者が殺到し、大渋滞、大混乱が生じ、大事故につながる危険性がある。埼玉県との境には川はないので、避難は比較的容易である。神奈川県との境の多摩川は約2.5キロ間隔で橋があるが、千葉県との境の江戸川や旧江戸川を挟む江戸川区と千葉県市川市・浦安市の間、市川橋と今井橋間は約8キロにわたって橋が無い(江戸川大橋は自動車専用道路なので歩行者は通行できない)。

 そこで、都知事の私は、市川橋と今井橋の間に2本、浦安橋と舞浜大橋の間(約3キロ)に1本、計3本の橋を架けるよう努力した。問題は、千葉県との間の財政負担であるが、その解決のために、森田健作千葉県知事とトップ同士で協議を始めたところで、私が都知事職を辞することになってしまった。

【参考記事】意外に豪雨に脆い東京、自治体の危機管理は万全か
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56641

 森田知事にその後の進展具合を尋ねてみたが、「小池都知事は舛添さんの政策を否定することばかり」なので、この件については何の連絡もないという。地震や水害などは都県境を超えて襲来する。近隣県の知事たちと常に連携していく姿勢がなければ、都民の生命と財産は守れない。

 防災対策は地味であり、新型コロナウイルス対策のようには目立たない。そのような地味な政策に小池都知事が手を着けるはずはないのである。重いツケを払うのは、都民であることを強調しておきたい。

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