都政を混乱させ、関係者の心を弄んだ市場移転問題

 まずは、築地市場を豊洲に移転する話である。

 私は、都知事として、築地も豊洲も視察し、関係者とも意見を交換し、様々な努力を積み重ねて、開場まで漕ぎ着けたのだが、2016年7月末に都知事に就任した小池氏は、豊洲への移転を突然の延期してしまった。3カ月後の移転の準備をしていた業者をはじめ、関係者は大混乱に陥った。

「安全だが安心ではない」などという屁理屈を述べる小池知事や、それを支援するマスコミの煽動に乗った都民は、業者への補償をはじめ、移転延期に伴う莫大なコストについて想像することもなかった。

 しかも、9月10日には、小池知事は、豊洲市場は、全てが盛り土ではなく、一部は厚めのコンクリートだと発表した。私がよく知っている某テレビ局の記者が、これを一大スクープとして大々的に報道し、小池都知事に人気取りになるから騒ぐように唆したのである。これが都庁記者クラブの実態だ。

 コンクリート空間はメンテナンス作業用であったが、「盛り土なし」という単純化された言葉が一気に拡散して、ワイドショーの格好の材料になってしまった。その後も、ベンゼンなどの有害物質が検出された(実は全く問題のないレベル)などいう問題が次々と引っ張り出され、小池支持率アップに使われた。科学を無視し、嘘も真実にしてしまう政治手法である。

 翌年の3月には、都議会の百条委員会で石原元知事、浜渦元副知事、元東京ガス幹部らが証人として喚問され、サーカスのような一大イベントに仕立てあげられたた。何も新しい事実は出てこず、豊洲用地の売買をめぐる「疑惑」も解明されなかった。前任者たちを糾弾し、自分の得点をつり上げるという得意のパターンである。

 その結果、豊洲移転が2年間も遅れてしまった。その損失は計り知れない。

 しかも、築地に残留を希望する業者の票を目当てに、「築地市場の再整備を行い、物流と食の観光拠点とする」と述べ、豊洲市場付属の千客万来施設の整備にも混乱を招いた。築地残留希望組は、豊洲移転が決まってしまい、しかも築地再開発の展望も不明な現状に、裏切られたと感じ、怒り心頭である。しかし、前言を翻しても平気な小池氏には、まさに「蛙の面に小便」である。

 豊洲騒動の余波で、環状2号線の全面開通が遅れている。これは、晴海の選手村から競技場まで選手を運ぶための幹線道路であり、東京五輪の運営に支障を来すことになるが、幸か不幸か五輪は1年延長された。