最も深刻なのは「教師のなり手がいない」こと

 そこから導かれる結論は当然ながら「さらに管理を強化して、現場の教員たちに決定権・裁量権をできるだけ持たせない」というものになる。

 そうやって次々制度をいじっては、教師を冷遇し、査定し、格付けし、学長や理事長に全権を集中させ、職員会議からも教授会からも権限を剥奪した。こうすれば「現場の抵抗」はなくなり、教育政策は成功するはずだった。だが、やはり何の成果も上がらなかった。

 この失敗も「現場が無能だからだ。現場が反抗的だからだ。もっと管理を強化しろ」と総括された。そして、学校現場における「督戦隊」的要素だけがひたすら膨れ上がり、「前線で戦う兵士」の数はどんどん減少し、疲弊していった……というのが日本の現状である。

 現在の学校教育現場で、最も深刻な問題は「教師のなり手がいない」ということだ。毎年、教員採用試験の受験者が減っている。さらに倍率が低いので、新卒教員の学力が低下し、社会経験が乏しいせいでうまく学級をグリップできない教員が増えている。それを苦にして病欠したり、離職したりする教員も多い。

 これまで教員たちから権利を奪い、冷遇し、ことあるごとに屈辱感を与えてきたわけだから、こんなことは当然予測された結果のはずだ。だが、おそらく文科省も自治体の首長も決してそれを認めないだろう。

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