太宰府天満宮仮殿全景。写真は完成間もない2023年5月に撮影したもの。屋根の上の新緑が初々しい(以下、写真はすべて萩原詩子)太宰府天満宮仮殿全景。写真は完成間もない2023年5月に撮影したもの。屋根の上の新緑が初々しい(以下、写真はすべて萩原詩子)

(萩原詩子:編集者・ライター)

「学問の神様」菅原道真公をまつる太宰府天満宮(福岡県太宰府市)に、現在「仮殿」が建っている。この「仮殿」は“3年だけ”という期間限定なのだが、「建築の前後1000年を視野に入れた」希有な建築なのだ。

「仮殿」は第1回「みんなの建築大賞 2024」のノミネート作「この建築がすごいベスト10」にも選ばれた。

 さらに建築的な興味深さだけでなく、季節ごとに変わる豊かな表情も楽しめる。残された3年弱の間に、現地を訪れてそれを実感してほしい。

選定委員が推す43作の中の10作に選ばれた

「みんなの建築大賞」は、日本の建築の魅力を広く伝えるために創設された、新しい建築アワードだ。有志で構成する推薦委員会が選んだ年間の「この建築がすごいベスト10」を候補とし、一般の人がSNSによる投票で「大賞」を決定する。第1回の投票結果(第1回大賞と推薦委員会ベスト1)は2024年2月15日に発表され、その経緯は以前の記事で紹介した。

だれでも投票できる「みんなの建築大賞」2024、ノミネート10作品を一挙紹介
一般の人のSNS投票で決める「みんなの建築大賞 2024」、大賞は建築系スタートアップVUILDによる「学ぶ、学び舎」

 筆者は推薦委員の1人として「この建築がすごいベスト10」の選定に参加した。そこで推した作品が、藤本壮介建築設計事務所が手掛けた「太宰府天満宮 仮殿」(福岡県太宰府市)で、全43作の中の10作にみごと選ばれた。一般投票による大賞は逃したものの、ぜひ多くの人に訪れてほしい建築であるとの思いから、別途紹介することにした。

重要文化財・御本殿の改修中に代役を務める「仮殿」

 太宰府天満宮の御祭神は、言わずと知れた「学問の神様」菅原道真公だ。「天神様」として親しまれるが、平安時代前期を生きた実在の人物である。若くして文章博士(もんじょうはかせ)に就任し、政治家としても卓抜した才能を発揮して、右大臣にまで上り詰めた。しかし、それゆえ藤原氏の嫉妬を買って大宰府に左遷され、そのわずか2年後に没している。太宰府天満宮は、道真公の御墓所「菅聖庿(かんせいびょう)」でもある。

 道真公は旧暦6月25日に生まれ、2月25日に亡くなった。その日付け「25」にちなみ、太宰府天満宮は25年ごとに式年大祭を開く。きたる2027年は、没後1125年の大きな節目となる。

 これに先立ち、御本殿は明治以来124年ぶりの大改修に入った。安土桃山時代の造営当時の技術を用いた工事には、約3年を要するという。その3年の間、参拝者を迎えるために設けられたのが「仮殿」だ。

現在の御本殿。安土桃山時代の1591年に、筑前の国主・小早川隆景が造営した。国の重要文化財に指定されている。手前は御神木の「飛梅」(とびうめ)現在の御本殿。安土桃山時代の1591年に、筑前の国主・小早川隆景が造営した。国の重要文化財に指定されている。手前は御神木の「飛梅」(とびうめ)