歌って演じて笑わせる、トーキー時代の申し子

「エノケン」の名のついた映画に主演し、歌って演じて動き回って、国内外の多くの人を笑わせたエノケンさんは、いったいどれくらいの映画に出演したのか。

 正確な出演本数はわかりませんが、主演も併せて出演した作品はおそらく180本以上になるのではないかと言われています。

 昭和11年から30年まで、戦時中の4年間を除き、記録されている映画作品だけで70本ほどあります。つまり1年に4本半新作が登場、そのうち題名に「エノケンの~」と冠されたものが40本近くあるのですから、エノケンという名前による動員力のすごさがわかります。

 また、舞台で演じたオペレッタ等の音楽劇は500本以上ともされているので、そうすると、歌った曲数はいったい何曲くらいだったのか想像もつきません。歌を覚える速さとともに、エノケンは芝居の台詞覚えも特別速かったそうです。おそらく音感だけでなく、記憶力も良かったということでしょう。

 テレビのない時代、老若男女を問わず多くの観客が封切り・開幕されるたびごとにエノケン映画やエノケン芝居に押し寄せたことでしょう。

 

(参考)
『エノケンと呼ばれた男』(井崎博之著、講談社)
『榎本健一 喜劇こそわが命』(榎本健一編、日本図書センター)
『エノケンと〈東京喜劇〉の黄金時代』(東京喜劇研究会編、論創社)『エノケンと菊谷栄』(山口昌男著、晶文社)
『エノケン芸道一代』等のCD類

(編集協力:春燈社 小西眞由美)