町工場が支えた「はやぶさ」プロジェクト

 日本の宇宙開発の総本山となったJAXAは、職員1600人を抱える大組織です。技術系・教育職がほぼ8割。組織の内部は「宇宙輸送技術部門」「第一宇宙技術部門」「第二宇宙技術部門」「宇宙科学研究所」「航空技術部門」「研究開発部門」などに分かれています。

 宇宙に関する事業を一手に引き受けているわけですから、ミッションも多様です。

 例えば、宇宙輸送技術部門が手掛けるのは、必要なモノを必要なときに運ぶシステムを地球と宇宙の間に築くことです。輸送手段が確立していなければ、どんな優れた技術も宇宙空間で活かすことはできません。現在は主力の「H-ⅡA ロケット」に代わる次世代の大型基幹ロケット「H3ロケット」を開発中です。

 第一宇宙技術部門は、人工衛星の利活用が主なミッション。現在は、地殻変動も見逃さない陸域観測技術衛星「だいち2号」、温室効果ガスを精密に測定する衛星「GOSAT-GW」などを運用しています。第二宇宙技術部門は、有人の宇宙活動を担う部署。国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」の開発・運用などに取り組んでいます。

JAXA無人探査機「SLIM」の模型(写真:AP/アフロ)

 幅広いJAXAの事業の中でもとくに広く知られているのは、小惑星から微粒子や石・砂などを持ち帰った「はやぶさ」「はやぶさ2」の活躍でしょう。子どもたちに夢を与えるというだけでなく、JAXAによる産業育成という意味でも象徴的でした。「はやぶさ」は日本のものづくりの伝統が十二分に生かされたプロジェクトだったからです。

 エンジンの推進剤となるキセノンガスは東京・大田区のガス専門会社が供給。耐熱材のサーマルブランケットは神奈川県相模原市の従業員80人の工場、砂や石の採取装置に使われた部品も首都圏の町工場。こうしたものづくりの集積によって、「はやぶさ」の探査は成功したのです。