世界のアート取引高は、年間678億ドル*1(約10兆円)。時価総額では200兆円を超えるとも聞く。この巨額の数字から、何を読み解くか。「アートフェア東京」のディレクターを務める北島輝一氏は「海外ではアートがオルタナティブ投資として扱われている」と解説する。アートと投資に今、何が起こっているのか? アート業界には珍しい金融界出身の北島氏に忖度なしで話してもらった。
*1:アートバーゼルとUBSによるレポート「Art Market 2023」より
(沢田眉香子:編集・著述業)
世界最大のアートフェアは、スイスの金融機関UBSがスポンサー
北島氏が率いる「アートフェア東京」は、日本最大級のアートフェア。ひとことで言えば、複数のギャラリーが出展する見本市だ。
アートフェアは現在、世界各地で年間90カ所近く開催されているが、規模も売り上げも世界最大級のフェアが、スイスの「アートバーゼル」だ。参加する約300軒のギャラリーの中には、一軒で100億円を売り上げるところもある。その会場で目を引くのは、スイスの金融機関、UBSのロゴだ。顧客のためのVIPラウンジも設置されている。
「アートバーゼル」は、現在のアート市場の隆盛を牽引したメガイベント。そのメインスポンサーをUBSが務めていることは、現在のアートフェアの様相を象徴している。つまり「アートがオルタナティブな投資対象*2となり、アセットとして規格化されてきた。アートフェアは信頼できるギャラリーが集まる、買い手にとって安心な場になった」。
※2:オルタナティブ(alternative)投資とは上場株式や債券といった伝統的な投資対象とは異なる投資を指す。農産物や鉱物、不動産などの商品、未公開株や金融技術が駆使された先物、オプション、スワップなどがある。
北島氏は解説する。「バーゼルは人口数十万の小さな街ですが、UBSなどグローバル企業の本社があり、金融取引が盛んで、資産の売買や保有に有利な街です。本来アートフェアは大都市在住の富裕層に対してアートを販売していましたが、UBSのグローバルな富裕層のネットワークを背景に、アートのオルタナティブ投資としての商品性を開拓した。さらに、『アートバーゼル』は、バーゼルと同様に資産保有に有利なアメリカのマイアミ、香港にも進出しました」。