イスラエル沖数百マイルに展開する米空母「ジェラルド・フォード」を電撃訪問したロイド・オースチン米国防長官(左、2023年12月20日、写真:AP/アフロ)

米国民が一番尊敬するのは軍と軍人

 アイオワ、ニューハンプシャーで吹き荒れた「トランプ旋風」で一時かき消されていたロイド・オースチン米国防長官(70=退役陸軍大将)の入院隠蔽工作疑惑が急浮上してきた。

 軍や軍人といえば、米国民が最も尊敬する職業だ。

(世論調査での尊敬度は軍・軍人69%、大統領38%、最高裁36%、新聞21%、議会12%である)

 しかも陸軍大将といえば、ジョージ・パットン大将、ドワイト・アイゼンハワー元帥といった英雄的将軍に並ぶ米軍最高ポスト。

 その大将からジェームズ・フォレスタル、キャスパー・ワインバーガーといった名国防長官の後に、黒人としては史上初のペンタゴンのトップになったのがオースチン氏だった。

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 軍歴もさることながら、人品骨柄、倫理観、指導力で抜きんでた人物だった。人種差別の壁を見事にぶち破って国防長官の座に就き、米国民から尊敬されてきた。

 ところが晩節を汚す羽目になった。

 2023年暮れ、前立腺の手術を受けた後、体調を崩し、1月元日、救急車でワシントン近郊のウォルターリード米軍医療センターに搬送された。

 搬送時には、公になることを避けて、赤いライト(赤色散光式回転灯)を点滅させず、サイレンも鳴らさぬよう指示したという。

 オースチン氏は、同医療センターには15日まで入院していたが、そのことをジョー・バイデン大統領に伝えたのは1月4日。

 その間の「空白の3日」は米軍の最高司令官である大統領は国防長官の居場所を知らなかった。

 大統領ばかりでなく、国防長官を補佐するキャサリーン・ヒックス国防副長官(女性初の国防副長官)にすら伝えていなかった。

 同副長官は1月4日に知らされ、その後1日、国防長官代行を務めたが、その間、静養先のプエルトリコに滞在していたという。

(おそらくケリー・マグサメン首席補佐官は知っていたはずである)

 オースチン氏は、米陸軍士官学校を優等で卒業、陸軍入隊後、オーバーン大学大学院で修士号、ウェブスタ―大学大学院でMBAを取得。その後、陸軍で武勲を上げ、出世街道をばく進した。

 米統合本部副議長を経て米中央軍司令官としてイラク、アフガニスタン戦争では、米軍が中核となる「国際治安支援部隊」を陣頭指揮した。

 2016年の退役後は軍事産業レイセオン・テクノロジーズ(現RTX)などに「天下り」し、バイデン氏に国防長官に任命された。

 バラク・オバマ大統領(当時)やバイデン氏が最も信頼する将軍の一人だった。

 そのオースチン氏が、自分の入院について、なぜ大統領に3日もの間、隠していたのか。

 ウクライナ戦争に加え、米国にとっては最も重要な同盟国・イスラエルは国際世論や国連の批判を無視してガザでの軍事活動を継続。

 さらにこのあおりを受けた親イラン武装組織フーシ派の商船攻撃に対し、米軍は軍事行動に踏み切っている。

 米軍の軍事活動を決めるのは大統領だが、その大統領に助言し、補佐、大統領の決定を受けて実際に兵を動かすのは国防長官である。

 その国防長官が3日間も大統領とのコミュニケーションを絶っていたのである。なぜか。その理由は現段階では分かっていない。